2009年発売の、一番最初に出た発達障害の子どもを描いた育児漫画です。
かわいらしい絵柄で読みやすい作品ですが、描かれた体験談はなかなか大変そうで。発達障害を持つか否かは別として、保護者の立場で読んで、対応を考えるのが良い気がします。
154ページ、1512円(税込)です。電子書籍は出ていません。
amazon ★★★★★(4.8) ※8件
楽天 ★★★★★(4.78) ※7件
【内容紹介】
涙と笑いと感動の、ADHD育児日記!
注意欠陥多動性障害を抱える小学生・リュウ太君と母親の日々の葛藤と成長のストーリー。
育児に悩むすべてのお父さん、お母さんにおすすめの、心温まる一冊です。
●amazonの作品紹介ページより引用
【感想と解説】
作者のプロフィール
作者のかなしろにゃんこ。さんは、講談社「なかよし」で活動していた漫画家。
●作者ブログ「かなしろにゃんこ。のマンガ絵日記」
●Twitter:@kanashironyanko ※更新されてません
夫と、夫の連れ子である長男、息子・リュウ太くんの4人兄弟。
(長男はこの本の中で登場しません。画像は下で紹介する最新の単行本より。)
この単行本には描かれていませんが、最新の本でかなしろさん自身や夫にも発達障害の傾向があると描いています。
息子・リュウ太くんの発達障害の症状
”多動性と衝動性、ADHDの特性の一部が見られる”と描かれています。
保育園時代はかんしゃくを起こし、他害や他の園児とのトラブルが起きていました。
小学校に上がってからは物をなくす・忘れる、他害してしまう、机が整理できない、長い間座っていられない、といった体験談が描かれます。
小学2年生の時、初めて「児童教育相談所」に足を運び、月に2回通うようになります。
勧めがあってクリニックに行き、リュウ太くんにADHDの特性があると伝えられます。
小学4年生の時、検査の結果、ADHDであると診断されます。知的な遅れはありません。
漫画の構成
本作では、トラブルが起き始めたリュウ太くん5歳から、発達障害(ADHD)との診断を受けた小学4年生までが描かれます。
目次はこちら。
漫画は1話7~10ページで構成され、全14話収録されています。。
巻末に専門家(医師)によるADHDについての説明が26ページついています。他の本にはないボリュームです。
黒柳徹子さんのベストセラー『まどぎわのトットちゃん』や、今作で描かれたエピソードを例に挙げつつADHDとはどういったものかを解説してあり、ADHDという障害がどういったものか?を広い視点で知ることが出来ます。
この漫画の特徴
・集団生活の中でぶつかったトラブルを描いていること
・他の生徒に迷惑を掛けた体験を描いていること
これに尽きる感があります。
今まで紹介した単行本は基本的に自閉症スペクトラム障害か広汎性発達障害の児童を描いています。
他の方の作品では、「他害」の経験はほぼ描かれていません。他の方の作品は、描かれる子どもの年齢が低い(就学前)のも要因とは思いますが、他害の体験はなかなか描きにくいだろうとも思うのです。
集団生活の中でぶつかったトラブル
トマコさんの『うちの子って発達障害! ?』でも、集団生活に入ったのをきっかけに、集団生活を送れなくて困る息子を描いています。
ADHDと広汎性発達障害のという特性の違いは大きい気がしますし、子どもが育った時期の差もあると思います(年齢からざっと計算すると、リュウ太くんは1998年?生まれ、なぁ太くんは2005年?生まれ)が、描かれるトラブルが異なります。
なぁ太くんは繊細で内向的な性格。自傷行為や円形脱毛症といった体験は描かれていましたが、他の子に危害を加えることはありませんでした。
また、トマコさんは早めに療育に通ったり、相談したりして普通学級から支援学級への移ったたことで、大きなトラブルは回避出来ていたように思います。
悩みや葛藤も描かれていますが、どちらかといえば「トラブルが少ない例」だと思います。
かなしろさんの体験談は、他者とのトラブルが多く描かれていて。読みながらドキドキ、ハラハラしました。
他の子を殴ってしまって責められたり、謝りに行ったり。大きなけがをしたり…。
ブログや他の本を読むと、けがや事故は漫画に描かれただけじゃないというのがまた恐ろしい。
他の方の体験談と比較すると、ADHDの子の方がケガや事故を起こす可能性が高く感じられ、ヒヤリとします。
他の生徒に迷惑を掛けた体験
うちは2人とも女の子だけれど、私の子どもが他の子を殴ったりケガをすることもあり得ます。
その時、どう対応すればよいのか。
私の子どもが殴られる可能性もあります。その時、どう対応すればよいのか。
基本的には謝れば済む話だとも思ってはいるのですが、相手の事情を慮る余裕が自分にあると良いなあ…。
描かれた親御さんの印象は良くないとも思うのですが、自分の子が傷つけられた時(殴られただけでなく、言葉で傷つけられた場合もですが)、冷静に喧嘩両成敗だ、お互い様だ、と思えるか?心配です。
かなしろさんの場合は違ったのですが。
例えばこういった、自分の子が誰かを殴って謝罪する場面で「子どもは発達障害で~」という言葉を口にしたら、言い訳に聞こえてしまうと思うんですね。事実であったとしても。
また、知識のない状態で他害行動がみられる子が「発達障害である」と知ったら、変な誤解が生まれてしまう気も…。
療育に通うことで、感情のコントロールを学ぶことも出来るようになると思う反面、小学生くらいだったら定型発達の子どもでも、感情のコントロールが出来なくても当たり前だとも思うのです。大人でもアンガーコントロールは難しいです。会社で研修を受けても簡単には実践できない。
親の躾がなってないとか、愛情不足だと決めつけられるのもおかしいと思います。
一方で発達障害についてある程度理解していても、「子ども同士だからよくあることだよ。気にしないで」と笑っていられるのだろうか。そんな心配をしてしまいます。
小4の壁
かなしろさんとトマコさん。2人の体験談に共通するのは、小4の壁のようにも感じました。
普通学級と支援学級、どちらが良いとは言い切れませんが、子育てをする上で、この時期を乗り越える難しさがあるように感じました。
これも定型発達の子でも、言えることです。
父親(夫)との関り
発達障害児を描いた漫画は父親の存在感が薄いものも少なくないのですが、今作は比較的、父親のことも描かれている気がします。
最初は障害と伝えられても反論する、勧められた本に目も通さない。こういった父親像が現在の「発達障害児漫画あるある」になっているのは寂しい気もしますが、これだけ多いのを見ると大半はこんな感じだろうと思ってしまう…。
とはいえ、かなしろさんの夫は一緒にペアレンティングを学びに行くなど、他の作家さんと比べればマシに見えます。子どもは夫婦で産み育てるものだと思う小野ですが、現実は色々と難しいですね(発達障害以前に、夫の育児参加が無くてワンオペ育児している方が多いですしね…)。
初めての発達障害の子どもを描いた漫画だと思いますが、リュウ太くんの特性ではなく、集団の中でどういったトラブルがあったか?を中心にして語られるので、定型発達児を持つ人も想像・共感しやすいように感じます。
他の方のレビューを「小学生の子どもに読ませた」という方もいますが、絵がかわいく読みやすいので、たしかに小学生が読んでも理解できそうな気がしました。
まとめ
かわいい絵柄と漫画家としての経験をもとに描かれていることもあり、そこそこ重い話でも暗くならず、読みやすいのが良かったです。
ADHDの子を描いた漫画はこれしか持ってないのですが、自閉症スペクトラム障害の子とは特性も起きる問題も違う気もします。
衝動性が強いこともあり、怪我や事故には注意しないとですね…。
比較しないと特性がつかみにくいとも感じるので、他の漫画も読んでみようと思います。
今作の他にADHDの子どもを描いているのは、ラム*カナさんの本だけだと思います。とりあえず注文してみました。
こちらは感想を書くか迷っていますが、史村アル仙さんのADHD漫画も読みました。作家さん本人のADHD体験談です。
大人になってからの壮絶な体験が描かれているので、これを読んで背筋が寒くなったというか、発達障害を真剣に考える必要があると気付かされました。
●Chanpionタップ!で連載中です。
【おまけ】単行本を読んだら
リュウ太くんは2017年現在19歳。
かなしろさんのブログを読むと「ADHDと広汎性発達障害の混合」とあります。
最新作
かなしろさんが息子・リュウ太くんを描いているのは今作と、最近、学研から出たブログを元にした電子書籍のみです。リンクはamazonのみですが、楽天KOBOやシーモア他、多くの電子書籍が配信されています。
プロフィールの「長男がいて4人家族」という記述はこちらを元にしています。
161ページ、468円です。中身はブログの再録で、漫画はカラーだったり白黒だったりする4-5コマ漫画です。
この漫画の感想を書くかは未定ですが、思春期の性教育っぽい話や、子ども時代のかなしろさんのことなども描かれています。ページ数も多くてお得感もあり、おもしろかったです。ブログが元なので、単行本よりざっくばらんとした雰囲気なのが逆に面白いと思いました。
発達障害の方へのインタビューを元にして描いた体験談をまとめた漫画も2冊発売されています。私も両方買いました。
発達障害 うちの子、将来どーなるのっ!?
ADHDの息子を持つ著者が、精神科医、人材コンサルタントなど複数の人にインタビューして描いた漫画。育児漫画ではありません。
こちらがKindle版です。
発達障害 うちの子、人づきあい だいじょーぶ!?
発達障害当事者のコミュニケーションや人間関係についてインタビューし体験談を描いた漫画。育児漫画ではありません。
単行本には描かれていないリュウ太くんの様子
かなしろにゃんこ。さんは「リタリコ発達ナビ」に連載を持っています。
その中で、漫画には描かれていないリュウ太くんの様子を描いています。
時系列で描かれているわけではありませんが、単行本では収録されていない「乳児期のリュウ太くん」や、小学4年生以降、中学生、高校生、最近のリュウ太くんの様子も描かれています。
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この感想は「発達障害特集」の一環です。今まで書いた「発達障害特集」の記事はこちら。
●発達障害に関する育児漫画
※追記
続編が発売になりました。
副題のとおり、反抗期になった息子・リュウ太くん小4から中3まで。障害告知やクラスメイトとのトラブル、お金の問題や進路選択についてが描かれます。
思春期のイライラや反抗期の話は定型発達の子育てにも参考になると思います。
体験漫画は結構ハードな内容で(障害関係なく)びっくりしたのですが、原稿を見ながら親子で「あの時はひどかったね〜」と話した、てエピソードもあって。今も親子喧嘩は絶えないようですが、暖かい雰囲気が感じられて良かったです。
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【一口感想】うちの子はADHD 反抗期で超たいへん!(かなしろにゃんこ。)
かなしろにゃんこ。さんの『うちの子はADHD 反抗期で超たいへん!』読みました。 息子・リュウ太くんが小4(発達障害と診断を受けた頃)から中3まで。障害告知やクラスメイトとのトラブル、お金の問題や進路 ...