人気の育児漫画ブログを運営しているトマコさんが描いた作品です。
自身や子どもの行動を冷静に分析しており、夫との体制作り、周囲との付き合い方、相談先と話した内容等も具体的。就学前~小学校に上がるまでの1つの事例として参考になると思います。
176ページ、紙の単行本は1512円(税込)、電子書籍は1400円(税込)です。
●作者さんのブログで試読できます
(レビュー)
amazon ★★★★★(4.5)
楽天 ★★★★★(4.78)
【内容紹介】
幼稚園で集団に参加できない息子を、ただの恥ずかしがりやだと思っていた母。しかし、そこには発達障害の問題があった……。
家庭では問題がなさそうに見えた長男が、幼稚園、小学校と、集団に入ると動けなくなってしまい、ついには体調不良、家でもイライラが爆発するようになってきます。そんな様子を見た母は発達検査を受けさせることを決意します。
しかし、それでも他の保護者や祖父母との関係、通常学級のままでよいのかといった迷い、学校や病院の対応、きょうだい・夫との関係など、さまざまな問題に葛藤していきます。
そんななかで、子どもへの寄り添い方に気づいていく、親の弱さも強さもわかる等身大エッセイです。
著者の子どものころや、監修の佐藤曉先生のお話の漫画も収録しています。
●amazonの商品ページより引用
【解説と感想】
作者のプロフィール
作者のトマコさんは漫画家、イラストレーター。
家族は夫・マサオさんと、3人の息子(なぁ太、コン吉、たい蔵)。
2006年6月、長男・なぁ太くん1歳の時にアメブロで育児漫画ブログ「あぁ、トマコの生きる道」を開始。
人気を得て2008年に「第1回 すくパラおすすめ子育て日記コンテスト」(現在のすくパラ総選挙)で特別賞を受賞。2009年にブログが単行本になりました。
2011年ごろからブログの更新頻度が下がり、2013年頃から最近まで、ほぼ更新していませんでした。
2017年6月にブログをライブドアに移転。”子育てが落ち着いた”とのことで、ブログ更新が再開しました。
●作者ブログ「あぁ、トマコの生きる道」
●Twitter:@tomakodo
発達障害を持つのは長男・なぁ太くん(高機能広汎性発達障害。現在だと「自閉症スペクトラム障害」と診断されるはず)。
トマコさんは岡山県在住です。
漫画の構成
漫画ではなぁ太くんの幼稚園入園から小学2年生までが描かれます。
まえがき、あとがきの文章。
本編は8ページの漫画と3ページの作者コラム(文章)が全13話。
監修の佐藤暁さんの解説(文章)が1ページ。
目次はこんな感じ。
コラム(文章)は漫画の裏話のような内容です。
漫画だとトマコさんは息子の障害を受け入れて冷静に分析・対処しているように見えるのですが、文章を読むと「実際は大変だった、苦しかった」ことが伝わります。
この漫画の特徴
グレーゾーンの子ども、その親としての心情、周囲との関係の変化が丁寧に描かれています。
・知的障害がなく一般的な「発達障害」とも違う感がある子ども
・母親の心情や変化が描かれている
・夫(父親)の様子も丁寧に描いている
・周囲(教師や支援先、病院)との連携についてもわかりやすい
長男・なぁ太くんの発達障害
なぁ太くんは知的な遅れもなく、定型発達と発達障害のグレーゾーンにいる子どもです。
集団生活を送るのは難しいと感じるけれど、はっきりとした特徴が表れているわけでもない。
4歳時点で検査したときの判断は「障害ではなく性格によるもの」でした。
漫画でも描かれていますが、トマコさんのブログにその時の様子が書かれています(文章です)。
●病院に連れて行きました。(2009年11月4日)
●【続き】病院に連れて行きました【追記有】(2009年11月5日)
小学校に入り、改めて病院で検査を受けます。
病院での診断名は「高機能広汎性発達障害」でした。知的な遅れはありません。
漫画の中で描かれていた、なぁ太くんの発達障害と思われる特性は
・初めての場所・人だと酷く緊張してしまう
・あいさつが苦手
・ストレスをためやすい(円形脱毛症になった)
・気温の変化によわい(夏になると動けなくなった)
・感情のコントロールが苦手
・疲れやすい
叱ると癇癪を起こしたりもしたようです。
読んでいて、なぁ太くんの特性は「発達障害」以外の解釈・説明もできる気がしました(詳細は後述します。診断もされているので発達障害であることを否定するつもりはありません)。
グレーな状態を放置せず、なぁ太くんには支援が必要だ、彼の特性に合わせた療育をしよう、と気持ちを切り替えるのは結構難しいと思います。
母親自身の苦悩や葛藤
「この子には支援が必要だ」と決意し、療育を受けたり、診断を受ける日々。
これ、見方を誤ると「親が子どもに障害のレッテルを貼っている」ことになるんですよね。
実際、実の親や周囲の人から「対応が大げさでは?」「子どもを障害者にしたいの?」と責められたようです。
その一方で「発達障害では?」「病院で診断を受けた方が?」という周囲の指摘もあったようで。い、板挟み…!
トマコさんは他人に期待するのではなく「自分が動く」「自分でコントロール出来ないことは手放す」を実践しています。
夫(父親)の心情を理解した上で待つ。
実の親の気持ちを慮る。
ブログ読者も含め、周囲の人との付き合い方。
これは発達障害の子への対応に限りませんが、変えられるのは「自分と未来だけ」と認識することは大事なことです。
「他人」は変えられません。
他人=子ども、夫、親、周囲の人間、教師、病院や学校などの組織などなど。自分以外は他人です。
また、行動を行いその時のベストを尽くすこと、未来を変えることで「過去」は変わります。事実は同じだけど自分の中での解釈が変わる。
「子どもに変わって欲しい」ではなく「自分の対応を変えよう」と考え、実践する姿が描かれている。だからこそ参考になる本だと思います。
なぁ太くんの変化も描いていますが、トマコさん自身の変化も細かく描かれています。
分かりやすい変化は「療育」の考え方。
上述した周囲からの意見に振り回されない考え方の話もですが、最初と最後ではトマコさんに対する印象が変わります。
私はブログを元にした単行本を読んでいたから余計に「トマコさん変わった…」と感じました。
母親の心情を描いているのに、「作者の感情に振り回されない」「読んでいてイライラしない」のはポイントが高いです。
父親や実の両親、周囲にいる知り合い(ママ友)とのやりとりではトマコさん自身が怒ったりしますが、読んでいて不快ではありませんでした(共感できる)。
夫(父親)を巻き込むには?
普段の育児でも父親の参加は少ないとされますが、発達障害を描いた育児漫画は更に父親の登場頻度が少なくて。
(子の発達障害ではなく浮気が原因ですが)離婚した方もいますし(君影草さんとか)、意図して夫を描いていない本もある(モンズースーさん)。
トマコさんの漫画はそこを埋めてくれるのがよかった。
最初は夫・マサオさんが子どもに無関心な様子に苛立つ。
マサオさんに触られたくないと感じたこともあった。
分かってもらおうと事情を伝えていたら一方的に不満を言ったような形になっていたと気付く。
大きな喧嘩を経て、2人で話し合うようになる。
マサオさん自身が子どもの障害を受け入れる時まで待つ。
共倒れにならないように、マサオさんは仕事、自分が育児と役割分担を考えるようになる。
結果としてマサオさんは育児のパートナー(父親)になります。
それが2巻で描かれる出来事に繋がってくるのも興味深かったです。
また、自分と夫との関りを分析して、子ども(なぁ太くん)の気持ちを推し測って対応しているのはすごいと思いました。
親自身が発達障害である可能性
大人になった現在は生活に支障がないようですが、トマコさんとマサオさんは自身が子どもの頃を振り返り、「自分も発達障害だったかも…」と語り合っています。
関連して実母の子育てについてちょっとだけ触れていますが、子の発達障害がきっかけで実母を見直す場面は良かった。
昔は昔で大変だったろうなあ、と思います。
発達障害グレーゾーン問題
この言及に関しては、「なぁ太くんへは発達障害ではない」「診断が違う」という指摘がしたいのではありません。
漫画に描かれているのは一面ですし、本のテーマに合わせて表現を絞るので”そう見えるだけ”という可能性が高いです。
この文章を残すか迷ったんですが、知っておいて良い気がするので残すことにしました。
支援は必要と感じるものの、自分の子の診断に違和感がある・発達障害の特性では説明できない場合は「HSC」について調べてみても良いかと思います。
なぁ太くんの特性
最初に読んだとき、私はほぼ発達障害の知識がありませんでした。「高機能広汎性発達障害(≒アスペルガー症候群)」の意味するところも全く分かってなかった。
その後、本を読んで勉強し、漫画を読み直していて「なぁ太くんは発達障害なのかな…?」と疑問を持ちました。特性が当てはまらないように感じたのです。
よく言われる特性を挙げると(「自閉症スペクトラムのある子を理解して育てる本」p33より引用)
・人とのかかわり、コミュニケーションが苦手
・興味の偏り、こだわりが強い
・感覚の偏り、動きがぎこちない
なぁ太くんは人の気持ちは読み取れているように見えます。むしろ他人の気持ちや行動に敏感で繊細なタイプ。
こだわりは描かれていません。
感覚過敏的なものは「気温の変化に弱く夏に不調になりやすい」という点があるものの、他と比べると少ない。
「特性が当てはまらない」とは、作中でトマコさんも描いています。
敏感過ぎて扱いにくい子ども「HSC」
私は育児漫画だけでなく育児書も定期的にチェックして、興味がある本は読むようにしています。
ちょっと前に「人に敏感過ぎて扱いにくいと言われる子どもがいる」といった本を紹介する記事を読んだ覚えがありました。
●子どもの敏感さに困ったら…HSC(敏感すぎる子)との向き合い方(ダ・ヴィンチニュース)
「HSC (Highly Sensitive Child)」
「人一倍敏感な子ども」「人一倍感受性の子ども」といった意味合いで使われます。
「HSP (Highly Sensitive Person)」とも言うようです。
注意として。HSP/HPCは病名・症状名ではありません。発達障害の1種でもありません。
ダ・ヴィンチニュースの記事では単行本の試し読みのような連載が紹介されています(全10回)
この中では「発達障害(ASD)の過敏さとHSCの敏感さは重なる」(意訳)といった記述も見られます。
HSCのチェックリスト(23項目)も書いてあるので気になる方は読むと参考になるかも知れません。
●<敏感で繊細な子>との向き合い方(よみものどっとこむ)
「HSC」を知って納得がいく場合もある
更に調べてみると、「発達障害グレーゾーン(アスペルガー症候群)なのかな?でも違うところもある…」と思っていた息子さんに関して、HSCの特性の方が符丁した。チェックリストを確認したら全項目当てはまったという体験談が見つかりました。
●発達障害と間違われやすいHSC(『それでも彼と未来をさがして』HSC母のblog)
発達障害はスペクトラム。十人十色です。
一方で「十人十色」と言われるからこそ起きる誤解もあるかも知れません。
自分の子が発達障害の特性から外れる場合は「HSC」について調べてみても良いかと思います。
まとめ
色々な発見のある本でした…。
単行本について、一口に「発達障害の子どもを描いたコミックエッセイ」とまとめましたが、読んでみると子どもに現れる特性もそれぞれ。「スペクトラム障害」と呼ばれるのにも納得です。
トマコさんの漫画は続きがあります。
続編である2巻では3年生で授業に参加できなくなっていき、4年生で特別支援学級に変更するまでが描かれます。
発達障害を知りたいとき参考になる本
トマコさんの本は実践した例として参考になりますが、我が子に合わせた参考書が欲しい場合。
発達障害の特性、相談したいと思った時の相談先、日々の子育てでどう対応するか?等が網羅されている本を見つけたので紹介しておきます。
興味が湧いたらamazonの「なか見!検索」や電子書籍の試し読みを読むと良いです。図書館にもある場合も多いと思います。
トマコさんの本と同じ「学研」なのはたまたまです。
発達障害のある子を理解して育てる本
自閉症スペクトラムのある子を理解して育てる本
ADHDのある子を理解して育てる本
3冊とも共通している構成はこんな感じ。
2)障害の特性の説明
3)こんなときどう対応するか?(事例集)
4)相談先・家族のケアやサポート
「発達障害のある子~」では自閉症・ADHD・学習障害・発達強調運動障害等幅広くカバーしています。
「自閉症スペクトラムのある子~」「ADHDのある子~」では、それぞれの特性に合わせて書かれており、「年代別に見る子育てのポイント」や実際に親の体験談も収録されています。診断されている場合はこちらを読んだ方が役に立つと思います。
B5版?くらいで大きいし厚みもありますが、紙で持っておいて必要に合わせて読むと良いような気がします。
絵も多くて読みやすく、文章での説明もわかりやすく理解しやすかったです。
余談ですがイラストを担当している今井久恵さんも妊娠・出産漫画を描いているんですよね(笑)
この漫画も絵がかわいくておもしろかったなあ。
長くなりましたが、この本は小学校入学前に読んでおくと良い本だと思いました。
※続編の感想を書きました。
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この感想は「発達障害特集」の一環です。今まで書いた「発達障害特集」の記事はこちら。
●発達障害に関する育児漫画