今まで紹介してきた単行本は発達障害を持つ子どもを育てる「お母さん」の体験談でした。
今作は、自閉症の弟と一緒に育った姉の視点から描かれた作品です。
子育ての当事者ではない姉の視点で描かれた「自閉症の弟・こうちゃん」は、ユーモアで楽しそうな人だと思いました。
小学生の読書感想文の対象書籍にもなっているようですが、自閉症を知らない人が入門書的に読むのに適した内容だと思います。
全111ページ、版は変形で正方形の形です。価格は1620円(税込)。紙の単行本のみ。
●出版社サイトで序文と目次を公開しています
レビュー
amazon ★★★★★(5.0) ※5件
楽天 ★★★★★(5.0) ※3件
【内容紹介】
自閉症という障害を持ってこの世に生まれてきた私の弟、こうちゃん。
こうちゃんの不思議でおもしろい世界を、誕生から社会に出るまで、こうちゃんの成長をなぞりながら、マンガとテキストで紹介する家族のストーリー。
●amazonの作品紹介ページより引用
【感想と解説】
作者のプロフィール
作者は阿部晴果さん。上述したように自閉症の弟を持つお姉さん。1987年生まれ、千葉県出身。
父、母、2歳年下の弟・こうちゃんの4人家族。
武蔵野美術大学の卒業制作として『自閉症って?~我が家のこうちゃん~』(フルカラー、96ページ)を制作。
この卒業制作が「MITSUBISHI CHEMICAL JUNIOR DESIGNER AWARD 2010」の茂木健一郎賞を受賞。
卒業制作を元に、編集しなおして出版されたのが今作です。
ちなみに作者の阿部晴果さんは、Twitterで育児漫画を発表している、こるこ(@coru_sketch)さんです。
●Twitter:@abe_haruka
あと最近はこっちのアカウントのほうで育児関連ツイやららくがきやらしてますので、よかったら見てやってください〜〜!こっちはかなりゆるゆるな感じです。 https://t.co/Vv97hy8ApJ
— 阿部晴果 (@abe_haruka) 2016年1月6日
弟・こうちゃんの自閉症の症状
TV番組をきっかけに自閉症と気付き、2歳頃から療育を受けていたようです。
中学に進学した際に「こうちゃんは(普通学級と支援学級の)ボーダーだった」と書かれているので、障害の程度は軽めだったようです(知的障害に関する記載はなかったと思います)。
幼い頃は
・多動
・クレーン動作
・こだわり
・パニック
…といった症状があったようです。
また、絶対音感のようで耳コピが出来る。記憶力もすごくて1歳頃から出来事を覚えているとか、出来事を言うとスラスラ日付や曜日まで言えちゃうとか。すごい。
こうちゃんが書いた年表も収録されています。
本の構成
こうちゃんが産まれてから、保育園、小学校、中学校、高校と進学し、就職し社会人になるまでが描かれています。
ご自身の体験談や母親へのインタビューを元に描かれた漫画が4ページ。
漫画の内容に合わせて、自閉症や発達障害がどういうものか、学校の種類や学校生活の様子を説明した文章が2ページ。作者のエッセイが1ページ、といった構成が基本です。
7ページで1章が作られ、全11章。たまにこうちゃんが書(描)いた年表やイラストも挿入されます。
文章部分は表現が平易で読みやすく、漢字を開いてあるなど、幅広く読まれることを意識した書き方になっています。
目次は↓の写真より出版社サイトを見た方が分かりやすいです。
この本の特徴
・姉の目線で描かれている
・誕生から社会人になるまでが描かれている
・自閉症について理解しやすい
・ポジティブ
発達障害児を描いた実録漫画はいくつも読みましたが、障害については一番わかりやすいし、内容を受け止めやすいと感じました。
それなりに大変な体験談も描いてあるように思うのですが、辛かった・苦しかった…といった描写にはなっていない。
客観的だけど冷たい訳ではなく、作者が一緒に過ごしてきた弟・こうちゃんのユーモアな側面を描けていると思いました。
説明をするのが難しいのですが、全体にあたたかみがありまして、それがとても心地よいのです。
姉の目線で描かれている
「母から聞いた体験談」を中心に漫画に描いているように思います。
姉であった作者自身も登場しますが、漫画では脇役な感じです。
お母さんは大変そうではありますが、聞いた話だからか適度な距離感があるので、安心して読めます。
章ごとに3ページある文章のうち、1ページは作者が書いたエッセイです。
ここには本音が綴られていると思いますが、良い意味で普通のことが書いてあります。
(この辺は私の偏見もあるかと思いますが)「きょうだい児」って何らかの不満を抱えてそうだけれど、今作ではそういった感じは全くなくて。
家からテレビを無くしたエピソードでは、小1くらい?の阿部さんを加えて家族で話し合って決めていて。
阿部さんの姿勢も素敵だと思いましたし、こうちゃんもユーモラスで楽しそうな人なのですが、2人を育てたご両親も素敵な方々なのだろうなあ、と思いました。
誕生から社会人になるまでが描かれている
体験談を描いた漫画は色々ありますが、社会人になるまでを描いたものは少ないです。
こうちゃんは保育園(障害児枠)→小学校(支援学級)→中学校(支援学級)→高校(私立高校)→社会人(就職)と進んでいくのですが、それぞれの段階に合わせた情報が軽く記されているので、参考にしやすいかと思います。
また、単に進学・就職だけでなく、スペシャルオリンピックスに出場したこと、英語教室に通っていたことなど、外の世界との繋がりが描かれているのは興味深かったです。
自閉症について理解しやすい
いくつもの本を読んでいますが、こうちゃんという1人の人物に焦点を当てているせいか、自閉症の人をイメージしやすいと感じました。
これ1冊では情報が足りないとも感じますが、誕生直後から社会人になるまで広くカバーできているのは良いです。
ポジティブ
全体的に明るくポジティブな雰囲気です。
漫画やエッセイを読むと、作者の阿部さんが、こうちゃんのことを大切に思っていることが伝わってきます。
読み終えて、こうちゃんって面白そうな子だなあ、会ってみたいなあ、と思いました。
まとめ
もう夏休みは終わってしまうのですが、小学生(高学年)の読書感想文に良さそうな本でした。
自閉症を学ぶ為の入門書として読むには、とても良い作品だと思います。
阿部さん=こるこ(@coru_sketch)さんが描く娘さん育児漫画も素敵なので、興味のある方はTwitterを覘いてみてください。
最近の漫画で記事になっているのはこの自転車での体験談です。
●こどもが自転車から落ちてしまった!ママの実体験から学ぶベルトとヘルメットの重要性(Up to you!)
それでは!
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この感想は「発達障害特集」の一環です。今まで書いた「発達障害特集」の記事はこちら。
●発達障害に関する育児漫画