「新波【ニューウェーブ】」特集第四弾は、かねもとさんが描いたファンタジー漫画『伝説のお母さん』です。
●「新波【ニューウェーブ】」特集記事は「こちら」にまとまってます。
伝説のお母さん
かねもとさんの『伝説のお母さん』は魔王を倒した伝説の魔法使いが、お母さんになったら…?というファンタジー。Twiiterを中心に、SNSで大好評を博しました。
単行本が発売中ですが、ブログで全ての話を読むことができます。
●伝説のお母さん(いっぱいかあさん)
紙の単行本はKADOKAWA発行。本編は描き直してあります。描きおろし16ページを収録。
電子書籍版はかねもとさんが管理しています。KindleUnlimited対象。
※2018/11/26現在、セール中で399円で買えます!お早めに~
内容紹介
城下町は保活の激戦区!我が子は待機児童!非協力的な夫!
母親とはどうあるべきか。女の一生とは。ファンタジーの世界の人間も苦悩する、結婚と出産、そして仕事。数々の壁にぶつかりながら、果たして彼女は旅立てるのか?笑いあり涙ありのギャグ漫画!
●伝説のお母さん 書籍情報より引用
作者のプロフィール
作者のかねもとさんは、東北在住の在宅ワーカー。「すくパラ2016秋冬ブログ総選挙」優秀賞受賞。
育児漫画はブログを中心に、Instagramでも発表されていました。
●Instagram:@kanemotonomukuu
●Twitter:@kanemotonomukuu
●ブログ:いっぱいかあさん
お子さんは2012年生まれの息子さん(キューくん、5歳)、2016年生まれの娘さん(ナッちゃん、2歳)の2人兄妹。
ご家族は旦那様を加えた4人。
私は、たまに登場するかねもとさんのお母さんのファンです。色々と素敵なのですよ。
感想
単行本を手にしたとき、帯が羽海野チカさんだったことに驚きました。
※元ツイート探してきた
夢中で最後まで読みふけってしまいました。お母さん… あぁ…お母さん 【創作まんが】伝説のお母さん - いっぱいかあさん https://t.co/XpjGMjZNNO
— 羽海野チカ (@CHICAUMINO) 2018年2月5日
保活問題に苦しむ”伝説の魔法使い”
『伝説のお母さん』は魔王が復活した世界で、子どもを保育所に預けられず、戦線に復帰できない魔法使いが主人公です。
1話目のキャッチーさ…素晴らしいですね…。
●【創作まんが】伝説のお母さん
↑ の画像はブログ版で、単行本化に合わせて描き直されています。
見比べるとコマの大きさから違ってますね…(調べたら3話目からは単行本と同じ横長のコマになってました。)
王国の保活事情は「第4話」で語られます。
私はこの再現度が好きです。現実もそうなんだけれど、こういう形で漫画になると、なんとなく笑える…ような…気もしなくはない…ゴフゴフ…。
4話のおまけ漫画も好きです。
保活問題といえば、2016年2月に「保育園落ちた日本死ね!!!」も話題になりましたね…。うん、滅びましょう!
保育所が足りない王国軍と、保育制度が充実した魔王軍
魔王軍の保育所の充実っぷりが本当に素敵で。魔族の子どもと一緒に育つのも多様性を育んで良さそうですよね…(遠い目)。
王国の王様は、「伝説の魔法使い」に復帰してもらうために色々な対策を打つのですが、表面的な問題解決方法が非常にリアルで…。読みながら「もうやめて!母のライフはもうゼロよ!」て感じが…しました…。
後輩ちゃんのこと
私は魔法使いの「後輩ちゃん」が好きなのです。かわいい。
この「すごいなあ…でも少しがっかり」という気持ちに共感しました。
●【創作】伝説のお母さん7話
妊娠、出産て喜ばしいことではありますが、後輩としての気持ちは色々と複雑ですよね…。素直に喜べない。
憧れていた人が家庭に入り、のほほんとした生活を送っているのは、羨ましい以前に怒りを感じるというか…。
自分が先輩の立場になれたと思えば嬉しいけれど、先輩には常に前を走っていて欲しいという想いもありますし。
自分が後輩だった頃を思い出すと、先輩に勝ちたい、負けたくない、という想いよりも、一緒に戦いたい、一緒に走っていたい、て気持ちの方が強いような気はしますし、結婚や出産を機に時短勤務になるとか、第一線を退くのを見ると、説明しにくいけれど、なんとなく寂しく、悔しかったなあ…と思います。
(そして自分はバリキャリになりたい…とか思っていましたが、子どもを育てながら第一線維持は無理がある…。出産前は「子育ての現実」が見えてないんですよね…)
後輩ちゃんを見ていて、£さんの「マタハラの話。」を思い出しました。
※現在は有料公開になっていますが、良い話です
●マタハラの話。(£/200円)
「魔王を倒したい」という本心
私がこの作品が好きなのは、「お母さん」ではない「伝説の魔法使い」としての顔も描いているところで。
このコマは本心だと思うし、親になると見失いがちな(こういった作品で描写もされにくくなる)「自分の中にある欲望」ですよね。
親として生きる日々は充実したものだけれど、気が付いたら、子どもの保育や教育を優先してしまい、自分の本心を語りにくくなっちゃう(忘れてしまう)部分もあると思うんですよね。
「伝説の魔法使い」さんが、「魔王を倒したい」のは、未来や国民を、自分の子どもを守りたいという想いだけでなく、魔法使いというキャリアを築いてきた自分自身の欲でもある。本当は後輩ちゃんにも負けたくはない。
「私が」魔王を倒したいし、その為に旅にでたい。
後輩ちゃんの嫌味に目を取られてさらっと読み飛ばしそうなんですけれど、「個人の欲求」が描けているのは本当に素晴らしいと思います。
「伝説の魔法使い」=「伝説のお母さん」の名前は最後まで明かされないのですが、この話を読んで、私は彼女を名前で呼びたいと思いました。
※7話以降についてはネタバレするのもあれなので、単行本かブログで全話お楽しみください。面白いですよ。
●【創作まんが】伝説のお母さん
●【創作】伝説のお母さん8話(前)
保活について描いた漫画
『伝説のお母さん』以外に、こんな作品があります。
ひだまり保育園おとな組(坂井恵理)
現在息子さんが小学1年生の漫画家、坂井恵理さんが描いた、保育所を巡る短編オムニバスです(全3巻)。
保活に関する話は2巻。自営業者として美容室を営む主人公は、わずか1か月で職場に復帰(自営業者に育児休業制度はありません…)。仕事をしながら保活に励む姿が描かれます。
1巻では「2人目の子どもを産んで、仕事を諦めた」お母さんが描かれています。
このお母さんは2巻でもちょっと登場したり。同じ地域に暮らす保護者の交流が描かれているのも面白いです。
『ひだまり保育園おとな組』で保活に関連する話は上の2話だけですが、それだけでも保育所の入所に関しては難しい問題をはらんでいると考えさせられます。いや、単純にもっと増えればよいと思うし、働いている働いていない関係なく、いつでも誰でも預けられれば最高なのですが。
作者の坂井恵理さんは、ご自身の妊娠・出産体験を『妊娠17ヵ月!』というコミックエッセイにしています。
かねもとさんの『伝説のお母さん』もですが、自身の体験を元に漫画を描き、本という形で残してくれることのありがたさをヒシヒシと感じます…。
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『妊娠17ヵ月!』(坂井恵理)を買いました~一口感想…といいつつ長い…
2014年にWEB連載していた、坂井恵理さんによる妊娠・出産の経験を描いた漫画です。 私としては、作者の考え方や姿勢は好きだけど、表現方法や台詞回しが分かりにくいと感じる作品。 その一方で、他の妊娠・ ...
川崎市議が描いた保活漫画
2017年2月に神奈川県川崎市の市議・小田理恵子さんは、待機児童問題をテーマにした漫画を公開しました。
●【待機児童問題】保育園落ちた!ママさん達の声を聞いてみた。Cさんの場合
Aさん、Bさん、Cさんの3パターンですが、この漫画も重い…。これを読むと、保活問題と都市開発計画などが絡んでいることや、個々人によって問題がちょっとずつ違うことが分かります。
小田さんは、こういった漫画を描いた理由として「現場の深刻さを伝えたかった」と書いています。
●【待機児童問題】保育園落ちた!ママさん達の声を聴いてみた。~このテーマで漫画を描いたわけ~
この漫画、公開された時には話題になったのですが。多分、現在保活している方は、こんな漫画があったことは知らないと思います…。良い漫画なのだけれど、WEBだと忘れ去られるのが早くて…。
勿体ないので、たくさんの方に読んで欲しいと思う作品です。
そして川崎市に住んでる方には選挙行って小田さんに投票してほしいとも思います(小声)
保育所問題について
『伝説のお母さん』と絡めて、待機児童問題について少々。
保育所と待機児童の問題って、生活とか、給与とか、その人のキャリアといった直近の問題だけでなく、将来の高齢化社会の問題やら年金の問題にも繋がっていたりします。
とはいえ、政治として見ると、選挙で票を集めるなら同じ福祉でも保育より介護、となるでしょうし…(でも介護問題と待機児童問題もつながってるので、広い視野で政策を立てる必要があります…)。
出産後に仕事を諦める女性は多い
女性の労働に関しては、「M字曲線」というグラフが有名です。
結婚、出産のタイミングで仕事を辞めることが現れたグラフ。
調査が始まった昭和50年頃はハッキリとした谷が出来たM字でしたが、30年を経た平成24年(2012年)には谷が緩やかになり、右側(年齢が上の方)にずれています。
●男女共同参画白書 平成25年版 > 第1-2-1図 女性の年齢階級別労働力率の推移
別のグラフで見てみると…。結婚で退職する人の割合は減っています。
1985~89年は56.6%だったものが、2000~2004年には62.4%になっています。
その数字は評価した上でですが、女性の就業率が全体の6割なのは低いとも思うし、「結婚前から無職」がだんだんと増えているのも気になります…。
●国土交通省『平成24年度 国土交通白書』第2章 第1節
また、「出産後も働く」人の割合は変わらず、「出産を機に退職する人」はむしろ、増えています。
出産後の就業継続については、育児休暇を取って継続する人の割合が増えています。
でも、「産後も就業継続」は1985~89年が24.0%、2005~2009年が26.8%と、2.8%しか増えていません。「出産退職」については37.4%から43.9%と、6.5%もアップしています…orz
「働き方」=雇用形態については、女性はパート・アルバイトの比率が非常に高いです。
平成24年(2012年)の正規雇用者は45.5%、パート・アルバイトは42.4%です。男性、女性共に年々、正社員比率が下がっています。
●男女共同参画白書 平成25年版 > 第1-2-8図 雇用形態別に見た役員を除く雇用者の構成割合の推移
保育所を必要とする理由は人それぞれですが、出産後の就業割合の低下や正社員比率の下がり方を見ていると、保育所だけでなく幅広い視野に立った労働政策や福祉政策の必要性を感じます。
ここ最近の保育所のはなし
保育所不足の問題、保育所は「働いていないと入れない」といった制度の問題が女性の雇用継続や再就職にブレーキをかけている感はありますよね…。
待機児童のカウント方法がバラバラだったものが2018年4月に統一されたりしてますが(まずは実態を把握することが大事なので、これも重要なステップだとは思う)、世の中や、子どもが育つスピード感と比べると、政治の進みは遅々としているなと思います…。
●隠れ待機児童とは? 定義は決まったが、問題は解消せず「虐待の疑惑で入れたくない保育園もある」の声も(HUFFPOST)
数が足りてないのは分かっているけれど、保育士も足りてないし、場所の確保も難航するようだし…。
一方で、「保育所の場所使用が地域住民により反対される」問題は単純ではないようなので、初報だけで判断せず続報も読んで欲しいとも思います。
●東京・吉祥寺の保育園反対運動は住民エゴなのか 「高慢」「子供施設が嫌いな人々」といわれた住民たちは…(産経新聞)
●「南青山」児童相談所「建設反対」で、地域と家庭の問題をどう判断するべきか(山本一郎・Yahoo!ニュース)
次の世代の為に訴え続けることが大事
保活の問題が中々解決しない理由のひとつは、当事者が2年くらいで入れ替わること、だと思うのです。
「過去に当事者だった人」が粘り強く活動しないと解決しないと思うんですが、幼稚園に入ったら入ったで役員とか行事とかあるし、小学校に上がるとPTAとかクーラーがないとか、本格的に再就職活動するとか。年代ごとに別の課題があるので、継続して訴えるのも中々難しい。
でも、誰かが継続して問題を訴えていかないと、ずっとそのまま。解決しない。
流石に、娘たちが親になる時代までは引っ張りたくない問題なのですが、今のスピード感だと解決してなくても驚かないかな…。
目の前の問題に取り組むだけでなく、自分の家庭では過ぎ去った問題も継続して訴えていくこと、当事者意識を捨てないことが大切だと思います。
個人的に、保育所問題では猪熊弘子さん(ジャーナリスト)の文章が好きです。
命を落とすかもしれない「危ない保育所・危ない幼稚園」の見極め方 https://t.co/Q3IJQWohWz #現代ビジネス
— 猪熊弘子 Hiroko Inokuma (@hirokoinokuma) 2018年11月19日
まとめ
長くなりましたが。
作品世界に合わせて、久しぶりに保育所の待機児童問題について調べましたが、私が保活をしていた5年前とそんなに変わってないですね…orz そりゃー勇者も魔王軍に寝返るわ…。私も魔王軍に行きたい…。
『伝説のお母さん』に登場する、夫については何も書いてないのでひとつだけ。
エピローグで「育児の攻略本」を作ろうとして失敗していましたが、育児漫画だったらヒットしたかもよ…?とは思いました(笑)
最近は、個人で活動するお父さん作家さんも増えて嬉しいですね。
※このまとめ、1年以上前のもので、Instagramの人気作家さんが抜けております…
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近年はお父さん側から妊娠・出産体験を描いた単行本も発売されています。
国の制度的には変わらないとも思いますが、育児に関わる空気感は少しマシになったような気がします。たくさんの育児漫画や、育児漫画作家さんの創作漫画で救われている部分もあると思います。
2017年に発表された『伝説のお母さん』は、保育に関するファンタジー漫画ですが、遠くない未来に、この漫画が「本当に」ファンタジーとして読まれる日本になるよう願っております。
読者が「なんか魔王軍って日本みたいだよね…」とか言い始めたら最高なんだけど。
余談・電子書籍版について
『伝説のお母さん』は、紙の単行本は出版社(KADOKAWA)、電子書籍は作者のかねもとさんが出版権を持っています。
電子書籍の出し方について興味がある方はどうぞ~
●「伝説のお母さん」書籍化までの日々と、電子書籍を個人出版にした理由と、その手順とか(note)
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●この記事は「新波【ニューウェーブ】」特集記事の一環として書きました。「こちら」にまとまってます。
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