【新波】新しいことを始めた育児漫画作家さん

『マママ魔王』(くずり)感想~「家族」の一側面を描く、極上のファンタジー漫画

投稿日:2018年11月28日 更新日:

「新波【ニューウェーブ】」特集第五弾は、くずりさんによるファンタジー漫画『マママ魔王』です。
「育児漫画目録」では極力、妊娠・出産・育児を絡めたテーマで記事を書いているのですが、今のところ唯一、子どもが登場しない(育児してない)漫画かも…(妊娠はしていますが)。

●「新波【ニューウェーブ】」特集記事は「こちら」にまとまってます。

マママ魔王

読み応えのあるファンタジー作品です。1話(前、後編)、2話(前、後編)、3話(前、後編)が公開中です。Twitterで発表後、noteとPixivにまとめていってます。

マママ魔王(note)

さて、『マママ魔王』の感想を書く前にいくつか注意が。
※イラストはくずりさんから頂いたものです

注意点をまとめますと、『マママ魔王』は暴力表現や性的な表現が描かれています。
殴る、流血する、といった暴力描写が苦手な方はそっ閉じした方が良いかと思います。また、性的な場面がありますので、お気を付けくださいませ。

物語世界では「醜い」「豚」と称される主人公・マトリカリアですが、私はぽっちゃりしていてかわいいと思うよ~(*^^*)
それでは解説と感想です。

内容紹介

天敵である人間たちの攻撃により、陥落寸前の魔族の城。
そこでは、人間に対抗するべく、次なる進化を目論む魔王の姿があった。

魔王に呼び出された王女・マトリカリアは、魔族の進化の為、勇者の子を孕むよう命じられる。

魔界のプリンセスが人間の子どもを妊娠・出産・子育てしていく物語。

作者のプロフィール

作者のくずりさんは、フリーランスのイラストレーター。女性。正式PNは野生(のき)くずり。
ご家族はくずりさん、夫、娘のトマトちゃんの3人。

●Twitter:@kuzuriok
●ブログ:くずりのnote
●Pixiv:作家ページ:くずり 

感想

『マママ魔王』はファンタジー世界を舞台にした漫画です。描かれる世界はすべて、くずりさんが作り出したものです。

これだけ広い世界を空想できるのはすごいし、子育てしながらその手を動かしてその世界をアウトプット、漫画に出来るのは素晴らしいと思います。

想像の翼を広げて

『マママ魔王』は風景描写がすごいなーと思って読んでます。

最初のページが ↓ これ なのですが。鳥のような魔物の動き(何気なく食べられたりしている)や羽の動きで前後に繋がりを持たせてる感じとか。想像で描かれた絵そのものも素敵ですが、カメラワークも素晴らしい。

こういった世界を創造できるだけでもすごいのに、手で描き出しているから、読めるんですよね…。

私は産後、想像力がガタ落ちでファンタジー漫画も小説も全く読めなくなってしまって。
でも、『マママ魔王』はすんなり読めたんですよね。漫画の世界ではありますが、空の青さや光のきらめき、風を感じられたことに驚きました。

王女・マトリカリアの変化

この漫画の主人公は、魔王の娘で「魔族を進化させる」と言われる女性・マトリカリア。

彼女の扱いは初っ端から酷いのですが。3話まではずっと酷い感もある…。(予告を見る感じだと4話も酷い気がする…。)
1話目は特に弱弱しさを感じてしまいます。

魔王も魔族も、彼女を「次代の子を産む女」としか見ていないし、「性別を持つ人型に似た種」として見下してもいる。
1話では彼女自身も、自信がなく、か弱いキャラクターに見えるし、その態度をアジュガに責められもする。

「貴女に矜持はないのか」との問いは、正しいけれど、ずっと嗤われて生きて来た人が矜持を示すのも、中々難しいことだと思います。

それが1話の終盤でセックスして、子どもを産むと決めてからは顔つきも態度も変わって。一晩の経験だけでこれだけ変わるのか…と驚きました。夢を見ているわけでもヒロイズムに浸っているのでもなく、自分の足で立ち上がった感じでしょうか。

「他人にやさしくされた」経験が彼女の中の、何かを変えた。

勇者・リゲルに対して「私は自分の為に子どもを産む」と言う姿も凛としてカッコよかった。1話目とは別人のようですね。少女から女になったというか。
げっそりとやつれるくらい、つわりも大変そうだけれど、マトリカリアの中では「子どもを妊娠したという喜び」を感じる症状なのかも知れません。いやまあ、それでもつわりはしんどいけども。

4話では娼婦として描かれるみたいですが、彼女がどう変化・成長していくのか。楽しみです。

楽士・フォーマルハウト

単に性欲が強いだけかと思いきや、そうとも言えない謎の人。
楽士とか、遊び人タイプの職業の人って、人生経験が厚くて底が読めないタイプが多いですよね…。

※…などと思いつつ、2話の登場人物紹介を見たら「性欲の塊のような男だが気はいい。」とあるのを発見。合ってた…。

フォーマルハウトは自然体で力が抜けた生き方をしているように見えます。マトリカリアに対しても優しかったし。愛情深い人なのでしょうね。
正体を問いたい気もするけれど、多分、若い頃に複雑な経験をしてるだけで、フォーマルハウトはフォーマルハウトという楽士なのだと思います。他のキャラクターと違って、自分に自信がある、地に足がついてる感じがする。

好きなキャラクターなので次の活躍を期待したいところですが、リゲルの軍からは離れたようなので。次回の登場はいつになるのだろう…。

勇者・リゲル

初登場の鎧姿を見ていて、「女性だったら良いな」と思っていたら本当に女性だった勇者様。(私は男装の麗人キャラクターが好きです。)勇者として選ばれたいきさつなどは不明ですが、正義感は強いものの人としては未熟な感じですね。

↓ の言葉は本音だと思いますが、自分の本音を見失っているような、不安定さを感じるキャラクター。

ロウヒーローと言いますか、「自分の正しさ」を信じて疑わない、他人の話に耳を貸さない様子はなんとも言えません…。

様子を見ていると器も大きくはない。若いせいか未熟さも隠せていない。でも勇者としての役割を果たそうという気概は感じる。
『マママ魔王』の人間世界は現代よりも男女平等でフラットなのかなあ。現代社会で考えちゃうと、若い女性が勇者というだけでも大変そうなのですが。

『マママ魔王』世界の宗教観は分かりませんが、リゲルは「勇者に選ばれた人間」、神のご託宣といったバックボーンを有する人間なのかも知れません。

ただ正直、「勇者」という看板は普通の人には重いものなので、どう頑張ってもその歪みが出ちゃうとも思います。他人が反論しないくらい「勇者であることの正統性」がしっかりしていれば尚更。
その辺はこれから描かれるのかな~。楽しみ。

魔王ウルムス

1話目では荘厳な雰囲気だった魔王。語り口が古語調だったり雅やかな雰囲気でしたが、マトリカリアを完全に道具のように扱う高圧的な様子は腹立たしくもあります。

2話で人型へと変化し、3話では博打好きなただのおっさんと化していますが…。なんでマトリカリアは父親を守っているのだろう…?なし崩し的なものなのか、人型の魔族は家族を作るようDNAに刻み込まれているのか…。

1話の、マトリカリアを「世代を進化させる為の装置」かのように扱う言葉や、卑下してみる眼差しも毒親のように感じましたが、3話目の「また」博打に負けた…といった行動は、また違った形での毒親に見えるという…。魔王の威厳はどこへ行ったのか…。読んでいる分には魔王のキャラクターがコミカルで楽しくもありますが。

マトリカリアの中には「親を捨てる」といった選択肢はないのでしょうね。個人的には親を捨てて楽になってほしくもあります。

アジュガ

マトリカリアにやさしくしている筈なのに、全くフラグが立たないかわいそうな人…。ううっ。

かっこいいし、賢いとも思うのですが…。今は魔王だし。
でも、姫様はアジュガを特別視してないですよね。全く。ただの幼馴染といった感じかしら。これから印象が変わる出来事が起きればよいのですが…。

アジュガの母親が暴力を振るう場面があったりもしましたが、アジュガは家族を得ることに憧れがあるのかなあ。基本的に良い人ですよね。アジュガは。登場キャラクターで一番他人を思いやってる感じがします。

良い人なので、努力が報われれば良いと思うのですが、往々にして努力って報われないものでもあり…。不遇…。

家族を持つ魔族と、家族を持たない魔族

魔族の設定は面白いですね。ひとつの種族の中で「純魔族」からは下に見られる「人型」があって。「人型」の中でも、人間の種族を滅ぼしかねない組と、人間と共存できる組とあって。家族を形成して生存しているという。

『マママ魔王』は「毒親」もテーマの一つらしく、実際、マトリカリアの親の魔王だったり、アジュガの母親だったりは子どもに暴力を振るう「毒親」のように見えます。

一方で、人と共存し繁栄している種族として「家族を生み出す人型魔族」を設定している。この辺は「家族」という仕組みのメリット部分を描いているとも言えます。

「家族」だから繁栄できる一方で、「家族」という形態だからこそ、「親」「子」という重たい関係も出来上がる。家族にはメリットだけではなく、デメリットもある。

ところで姐さんかわいくて良いですよね…。ロリババア最高。
吸血鬼の一族だから、コウモリの眷属のようですが、ちょっとリスっぽくてかわいらしい。

3話までのまとめ

一通りの登場人物が登場し、設定の説明を済ませた感じではないかと思います。

各キャラクターの成長や活躍も楽しみですが、「家族」や「親」「子」というものを、どう描いていくか楽しみです。

現在、4話目の更新も始まっていて、6ページが公開中です。(Twitterのみ)




R18のいちゃラブコメディ『夫婦夜話』

『マママ魔王』のキャラクターは、セルフパロディの「真央夫婦」としても描かれています。
現代社会に働く夫・亜樹雅(あきのり・37歳)と、働きながら子どもを育てる主婦・茉莉花。

『夫婦夜話』はTwitterなどで発表されたあと、Kindle(アダルト)で販売されました。
29ページ・108円です。


※リンクついてますが販売はKindleのみです(BOOTHにも追加予定)

『夫婦夜話』はアダルトなのでセックスシーンも描かれているのですが、個人的に好きなのは会話劇の部分です。
子どもは寝ている、夫婦だけの空間での会話は生々しいけれど、仲睦まじい感じもあって良いですね。

夫・あきのり君が紳士的で優しいのがまた良くて。
自分の欲望もあるでしょうけれど、茉莉花ちゃんの疲れを労って控えるとか。避妊もちゃんとしてますし。アダルト作品でこういう細かいところを描いてる作品は珍しいと思います。(まあ既婚子持ち女性が登場するアダルトがそもそもほぼないのですが…どうしても男性向けの市場でもあるし)

事前にも事後にも、相手を思いやって行動する様子が描かれていて、ほっこりします。
子育て中にセックスレスになるご家庭も少なくないと思うんですけれど(それはそれで悪くはありませんが)、「男性側に考えて欲しいふるまい」の1パターンとして、男性に読んで欲しいな~とも思います。

あきのり君・茉莉花ちゃん夫婦は『マママ魔王』の2人とも繋がる部分があると思うんですけれど、現在(3話まで)の距離感とは大分違いますね。

『夫婦夜話』で夫妻は37歳で2人の子持ちですが、『マママ魔王』作中では25歳とか、20代中盤くらいだと思うんだよね…。10年もあれば、人間もだいぶ変わるとも思います。

今後、マトリカリアやアジュガがどう変化・成長していくのか?それによって関係性がどう変わるか?も楽しみです。




まとめ

実は、くずりさんに「感想書かせてください」的なメールを出してから既に1年が経過してまして…(昨日のかねもとさんもだけれど。だから頂いた画像の日付は2017年11月です)。1年経ったけど、感想が書けて良かった。

『マママ魔王』は物語そのものも面白いけれど、やっぱり世界の描かれ方が良いです。風景を見ながら、異世界空間の広がりを楽しんで欲しいな~と思います。

※2話冒頭のこの辺の場面も見応えあって好き…。

続きも楽しみにしています!
それでは~

***
2018/11/29追記:
私の感想を受けて、作者のくずりさんが『マママ魔王』の裏話を披露してくださいました~!面白かった。

***
●この記事は「新波【ニューウェーブ】」特集記事の一環として書きました。「こちら」にまとまってます。

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