出産時の年齢が40歳~

『妊娠17ヵ月!』(坂井恵理)を買いました~一口感想…といいつつ長い…

投稿日:2014年4月13日 更新日:

2014年にWEB連載していた、坂井恵理さんによる妊娠・出産の経験を描いた漫画です。

私としては、作者の考え方や姿勢は好きだけど、表現方法や台詞回しが分かりにくいと感じる作品。
その一方で、他の妊娠・出産漫画にはない「この感じを描いてくれるのは嬉しい…!」と思う場面も多々あります。

総合的には好きな気持ちが勝るのですが、作者の個性が強い為、人には勧めにくいとも感じます。

心配な方はKindleや楽天Koboなど、電子書籍版を購入すると良いかもしれません(紙の単行本より安くて、432円です)。
出版社サイトの試読ページで1~4話が読めます

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amazon ★★★★(4.2) ※レビュー4件
楽天 ★★★★★(5.0) ※レビュー1件

【内容紹介】

漫画家・坂井恵理。子どもを欲しいと思ったこともなかったのに、39歳独身にして突然の妊娠!
どうする!? 親になるってどーやって!?
戸惑いながらも妊娠生活を楽しむ日々。

しかし7ヵ月目、思いもかけない、胎児死亡宣告。
自分が、人前で声をあげて泣けるなんて、知らなかった―――。

7ヵ月で死産→再妊娠・出産! 坂井恵理の17ヵ月にわたる長い妊娠期間に起こったこと・考えたこと。セキララに描くコミックエッセイ!

【感想】

39歳で妊娠した作者の妊娠・出産漫画です。講談社BE LOVEサイトにて連載していました。

内容紹介からも分かる通り、死産の体験について描かれています。

興味がある場合は出版社サイトの試読ページで1~4話が読めますので、まずは試読してみてください。

私はWEB連載を全話読んでいますが、単行本も購入しました。絵も綺麗で読みやすいし、内容的にも読み応えがある作品です。
ただ、(死産と言うテーマであることは関係なく)人を選ぶ作品だとは思います。

私は色々な妊娠・出産・育児マンガを読んでいますが、年齢が40歳前後の作者による作品は「作者の生きる姿勢」が作品に現れます。
良く言えば作者の個性や持ち味が作品に表れる。悪く言えばクセが強く万人向けではないように感じます。

作者だけでなく読者の生き方も固まってきているのも要因かと思いますが、作者の考え方や姿勢に共感できないと読むのが苦痛になりますので、試読してからの購入をお勧めします。

※『妊娠17ヵ月!』以外で、40歳前後での妊娠・出産を描いた作品はこの辺を参照ください。
作者の年齢が30~39歳の妊娠・出産マンガの感想文(ほとんどが35歳以上)
作者の年齢が40歳以上の妊娠・出産マンガの感想文

作中で描かれる作者(主人公)の特徴

ドライな性格である
「不満」を「怒り」で表現している(→2・4・5話あたり)
育児しない男性に否定的(→4話あたり)
社会への関心が高い(現代社会への疑問や不満描写も少なくない)

…という傾向があります。

妊娠や死産という体験を描いているけれど、感じた気持ちを冷静に描き出すので、どっぷり共感して読む感じではないように思います。

作者は長女で年の離れた弟がいます。父母との関係性は長女・長男の人の方が共感できるかもしれません。

妊娠を通じて亡くなった母親のことを考えたり、育児をしなかった父親を思い出したり。親が自分に与えた影響について考え、描きだしています。

また、若いうちに母親を亡くし「実家に頼れない状態」での出産・育児でもあるせいか、夫に対する感情?期待?が、ちょっと変わっていて新鮮でした。

作者が描いている気持ちは常識や従来概念に染まっていないので、甘すぎない感じや尖った感じは、個人的には好ましいと感じました。
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今作については、「妹」の立場で、自分の姉の姿を思い浮かべながら読むほうが面白かったです。

私の姉は40歳で独身。東京で1人、働きながら暮らしています。
両親への反発心が強く、結婚や出産を望まず、1人で生きていく覚悟を決めています。
なんとなく、作者と似ているように感じました。

読んで、描写や作者の言葉にひっかかり「なんてわかりにくいんだ…」とは思うけれど、姉と似ているところが見えるので、キライにはなれないのです。
作品としてはどうか?と思いますけれど(^^;

気になるところ

自分が「この作品は人を選ぶ」「読みこなすのが難しい」と感じた部分について書きます。

作者がコミックエッセイを描き慣れていないせいか、何を伝えたいのか分からないと感じる場面が多かったです。
結果として、作者の言動に筋が通っていないように感じて戸惑うこともありましたし、人によっては主人公をわがままで身勝手な人物と捉えるように思います。

例えば、↓のコマを読んで「ん…??」と思いました。
※これについて書いた5話まで読んだ時点での感想をWEB漫画の紹介記事の下の方にあります。我ながら愚痴っぽいです。
【WEB漫画】プロ作家さんの育児漫画2作+子供がカワイイ創作漫画2作
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単行本で読み直して「以下の記事で語られるようなことが言いたかったのかも…」と思い至りました。

妊婦には何でも禁止した方が無難?(宋美玄のママライフ実況中継)
※要約すると、「念のため」で妊婦にとって不必要な制限をするのは問題ではないか?という問題提議です。

宋美玄さんは温泉を例に挙げて「妊婦に何でも禁止される状況はおかしい」と伝えています。
私も根拠なく行動を制限するのはおかしいと思います。知り合いに妊娠中、「(種類問わず)刺身は食べるな!」と親に言われた人もいますし。

しかし、妊娠中の飲酒については専門家である産婦人科医によって意見が異なり、「妊婦に不必要な制限」であるかは意見が分かれるので説得力が薄い。
また「クレーム対策?」という一言はいらないのでは?と思いました。

わかりにくいと感じた部分は他にも2つあります。

1つは、連絡もせずに飲み会に参加し、朝帰りになった夫に嫌味を言う場面。
帰ってきた夫に「何してたの?」と涙を流す主人公(作者)の描写があった後、↓のように「感情的にならず少ない言葉で正論を吐く」と書いています。
妊娠17ヵ月!

私は、主人公(作者)が涙を見せた時点で「この人、感情的になってる」と思いました。

自分が会社員の時、上司に「男と対等に扱ってほしいなら泣きたくても絶対に泣くな。女が泣いたら男はその時点で弱者として扱わざるを得なくなる」と言われて泣かなくなったから、そう思うのかも知れません。

(女性の場合、感情が昂ぶると泣いてしまうことが多いので、性別特有の性質なのに男性に合わせるのはどうか?等を追及すると長くなるので割愛。)

もう1つは死産した子の葬儀の際、義父母で会話を交わす場面。
義父を罵っているとも、義母を称えているとも解釈できる場面があります。
妊娠17ヵ月!

WEB連載中に読んだ時は、作者が「育児をしなかった男性にはわかるまい」と義父を罵っているようにしか見えなくて。混乱しました。

単行本を購入して再読したら「育児をしなかった男性にはわかるまい」は、「死産経験はないけれど、育児をしていた義母には自分の辛さが分かってもらえた…(けれど、育児をしなかった父親にはわかるまい)」という意味にもとれると気付きました。

自分は後者の解釈なら納得できましたが、この場面はどちらでも解釈できる為、反発を感じる人は少なくないと思います。

作者が妊娠中や死産後に感じた”不満そのもの”は理解できます。
しかし、その不満を漫画に描きだすことで読者に何を伝えたいのか?はよくわからない。

”作者がそう感じた”と描きたかっただけで、深い意図はないのかも知れません。

また、不満を「怒り」で表現している場面が多くてちょっと気が滅入りました。
私はマンガに描かれた怒りの感情が苦手なので、試読で気にならなかった人は、気にならないとも思います。
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読んで戸惑う場面はこのくらいで、後半になるにつれて共感できる場面の方が増えていきます。

好きなところ

前述したように、私の好きなところは、意図しなかった予定外の妊娠・出産、そして死産の体験を淡々と描いていること。甘さや甘えがないところ。

若いころから子宮のトラブル、実父への思い、実母の病気や死について、死産の経験、帝王切開の経験など、様々なテーマについて淡々と描いています。
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「40歳で母になる!」のサブタイトルがついていますが、出産年齢が40歳であることに喜んだり、老眼だから息子の顔を見づらいと感じたり。
加齢による身体の衰えや、ちょっとしたことで年齢が気になる…といった部分もありのまま描いているところは好き。
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苦手なところを長々と書いていますが、作者の考え方や姿勢、妊娠してからの気付きの描写など共感できる部分はたくさんありました。

そして、それは他の妊娠・出産マンガには描かれていない気持ちが多いです。

妊娠して初めて、町に赤ちゃんがたくさんいることに気付く場面。
母の病や死に対する思い。

眠る息子を見ながら亡くなった母を思う場面にはホロリとしました。
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まとめ

好きなところより苦手なところについて深く言及していますが、総論としては好きな作品です。

この作品を読んで不快に感じる人もいると思いますが、例えば親との関係を見つめ直し、気が楽になる人もいるでしょう。
妊娠をしても素直に喜べなかったり、『たまごクラブ』などの育児雑誌にときめかない自分を肯定できる人もいるでしょう。

自分は、高齢出産が増えている現在だからこそ、こういうちょっと変わった視点や考えを描いた妊娠・出産マンガが世の中に発表されることが好ましいと思います。
妊娠17ヵ月!

死産や赤ちゃんの死を描いた漫画

妊娠・出産漫画も種類が増えており、『妊娠17カ月!』以外にも、作者自身のつらい過去の体験を描いた作品もあります。
私がもっているのはこの3冊です。

不育症戦記 生きた赤ちゃん抱けるまで(楠桂)

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楠桂さんの、2人目の子どもを産むまでの戦いの記録。壮絶。
自身の辛く苦しい体験を作品として昇華させている名作ですが、描くのがどれほど大変だったろう…と思う作品。
残念ながら絶版していますので、中古本をお探しください。

『不育症戦記 生きた赤ちゃん抱けるまで』(楠桂)~第2子誕生までの壮絶な戦い~

最近、自分が第2子妊娠に向けて準備を進めていまして、「第2子の妊娠・出産が描かれた漫画一覧を作るか~」と調べておりました。 そういえば『不育症戦記』も第2子妊娠の話だったな。 そう思って手にとったら、 ...

続きを見る

NICU~命のものがたり(仙道ますみ)

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妊娠7ヶ月で異変に気付き、超未熟児として娘を出産。NICUでの1年に及ぶ闘病生活を描いた漫画です。絶版。
作者がNICUで我が子を見守った体験を、明るく描こうとしているように見える分、読んでいてつらさが伝わってくる作品。

今日も母親やりきりました。ごんたイズム2(カツヤマケイコ)

個人的に読むと泣けて仕方ないのは、『ごんたイズム』2巻の最後に収録されている6ページの漫画です。
出産予定日5日前にお腹の中で亡くなった長男の話が描かれています。

カツヤマケイコさんはその後、3人の子どもを出産し、その様子を『ごんたイズム』にて描いています。

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2度の流産の体験を中心に描いた『がけっぷち出産ぶんぶんマーチ』も良い作品です。

『がけっぷち出産ブンブンマーチ』(水玉ペリ)感想~アラフォー女性の2度の流産、高齢出産~

38歳で結婚した漫画家、水玉ペリさんによる妊娠・出産漫画です。 感想のサブタイトルに「流産」と入れていますが、自身の流産体験を詳細に描いている作品です。 流産体験とその時期の自分の様子を描いた妊娠・漫 ...

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現在の医療だと出産=安全、妊娠したら産まれてくる。
そんな風に思いがちなんですけど、そうじゃないことに気付かせてくれる作品たちです。

***

2018/1月追記:
坂井恵理さんの新作、『ひだまり保育園おとな組』もおもしろいですよ~。
保育園を舞台に、子育てや夫婦に関する色々が、1話完結のオムニバス形式で描かれる創作漫画です。

エピソードには、作者の子育て体験がいかんなく発揮されている感じです。個人的には1巻よりも2巻の方が面白くて仕掛けも色々あって、読みながら驚きました。※全3巻です。

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2019年3月7日追記:
『ひだまり保育園おとな組』のあとの連載、『シジュウカラ』1,2巻が同時発売になるようです。
今回は、40歳を迎えた女性漫画家が主人公で、女性の仕事や男性との関わり合いがテーマかな?
連載を読んでますが、40歳くらいの、子育てがひと段落した女性の気持ちをうまく拾えていて、読みやすいと思いました。

4月17日発売です。

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