【新波】新しいことを始めた育児漫画作家さん

『B-TRASH!!』(夏目義徳)感想~隅々まで読んで欲しい!キャラが魅力的なバスケットボール漫画

投稿日:2018年12月3日 更新日:

※2020年11月29日:連載媒体が「サイコミ」から「LINEマンガ」に変わったので、最新情報を加えました。

育児漫画を描いていた作家さんの新たな動きをご紹介する「ニューウェーブ特集」記事です。

夏目義徳さんは元々漫画家として活躍していて、主夫として家事育児を担当していた時にブログで育児漫画を発表していました(その後、noteに移行)。

今は横山良一さんや、とよ田みのるさんなどプロの男性漫画家が育児漫画を自主的に発表していますが、ブログで育児漫画を発表したのはプロ男性漫画家は夏目さん初だったのではないかな?と思います。(アシスタントの方はいたけど。時期的に丸本チンタさんよりも早いはずです。)

●「新波【ニューウェーブ】」特集記事は「こちら」にまとまってます。

B-TRASH!!(夏目義徳)

娘さんの妊娠・出産・育児を描いた『うんそだ』『うむそだ』をnoteで無料公開していた、漫画家の夏目義徳さん。

現在は「サイコミ」でバスケットボール漫画を連載しています。

作者のプロフィール

作者の夏目義徳さんは、漫画家の男性。
家族は奥様、娘・PONちゃん、猫のはなとジョージの3人と2匹。

●Twitter:@summereye
●ブログ:夏目義徳のnote

育児漫画はnoteを中心に、Twitterでも発表されています。
会社でバリバリ働く妻、主夫として家事育児を担当する夏目さん、といった家庭が描かれました。

現在は小学生になったPONちゃんを描く『うますく(産まれてすくすく育ちます)』を不定期更新中。

育児漫画についてはこちらの記事を参照ください。

【WEB漫画】『産んでもいいけど育てない』(夏目義徳)~noteで更新中、父親目線の妊娠・出産・育児漫画

男性漫画家・夏目義徳さんによる、妊娠・出産体験を描いた4コマ漫画『産んでもいいけど育てない』。 個人でnoteに更新されている作品ですが、父親目線で描かれた妊娠・出産漫画としては、漫画の本数も多く、読 ...

続きを見る


代表作は、サンデーで連載していた『トガリ』や『クロザクロ』など。

育児漫画の単行本はありませんが、飼い猫のはなとジョージを描いた『ねこはなはなし』が単行本になっいます。娘・PONちゃんや奥様も登場しています。

作品紹介

嵐矢平人は悪口(トラッシュトーク)と負けん気の強いワンマンバスケットボールプレイヤー。
とある出来事を切っ掛けに、バスケ強豪校である黄金山高校打倒を目指し、並みの高校・波高に入学する。
そこのバスケ部に集まるクセ者達とは…。
●Amazonの作品紹介ページより引用

単行本

2020年11月現在、電子書籍のみで4巻まで発売中です。

連載を読むには?

「サイコミ」で単行本5巻相当まで連載し、一旦完結。
2020年秋ごろから「LINEマンガ」で続きを連載しています。

LINEマンガ「B-TRASH!!」

登場キャラクター紹介

漫画に登場するキャラクターです。説明は私見です。

嵐谷平人(あらしや へいと)

本作の主人公。バスケットボールで勝利することに拘りがある人。
主人公なのに一番キャラが掴めないという謎の人…。何考えてるんだろう…?と思いながら読んでます。悪い子じゃないんだけど。

作中で同級生が「平人」という名前は英語の「Hate」と重ねたりしてますが、私としては「公平」「中庸」な感じの人だな、と思ってみています。flatの平。

他人に期待しない、自分が決める、その為に練習もしっかりやる、…という姿勢は好きです。口ばっかりではない。「俺のことは俺で決める」という姿勢を貫くことも、中々出来ないことだと思う。

バスケットボール(チームプレイ)より武道(1人での戦い)の方が向いてる精神性のように思います。私が教師だったら剣道や陸上を勧めるだろうな…。

平人が「バスケットボールが好きになった理由」「勝ちに拘る理由」を知りたいな~…などと思うのですが、高校生くらいの頃って、特に考えもなく、こんな感じのような気もする…。私も負けず嫌いだったしな…。

この漫画の主人公は平人なので、登場頻度も高いのですが、平人の気持ち(モノローグ)や、平人の視点で描かれることはほぼありません。
平人の言葉や行動を見たり、周囲のキャラクターの解釈を聞きつつ「こういうことかな??」と平人という人物を理解していくという。

珍しいタイプの主人公だと思います。

水堂竜士(みずどう りゅうし)

こちらもある意味主人公。身長186cmとバスケットボールに向いた体格を持ち、運動神経も良い名プレーヤー。無口。
高校ではバスケットボールを辞めると決めたけれど、結局バスケットボールを続けることにした人。

こちらは何も話さないのでイマイチよく分からない人…。
ルックスや才能、無口であることから、水堂くんのことは割と好きなのですが、よく分からない。

1人でプレイしているように見える平人とは逆に、「チーム」に囚われて、チーム(仲間)からの期待が重荷になっているような。「1人でやれる」平人と、「チームが繋いだパスを1人で受け止め、シュートを決めなければならない」水堂。

結局、2人とも1人で戦っているようにも見える。平人と水堂とは、裏表の関係ですね。

お姉さんがプロバスケ選手だったりするのですが、「りう」て呼ばれてるのがかわいらしいと思いました。お姉さんもカッコよかったので再登場してほしいな…。

秋信優(あきのぶ ゆう)

平人の幼なじみ。身体が弱かったせいか、中学生なのに視野が広いし心も広い人。
平人のライバルのような存在になるのだろうか。

1話で示された、優の「1人じゃ勝てない」という主張と、それに対する平人の「オレには出来るって意味だな(=1人でも勝てる)」という言葉はこの漫画のテーマになるのかな?と思っています。

野々村貴市(ののむら きいち)

遊び人ぽい2年生。3ポイントシュートの名手。
余裕があるというか、人をよく見てるな~と思います。好き。

武巳慧(たけみ けい)

無精ひげのせいでおっさん感が強い2年生。バスケは高校から始めた初心者らしい。好き。

泉州(せんしゅう)

退部している2年生。
1年生の頃、バスケ部で改革を起こし、「チームを強く出来る」人だったけれど、挫折して、バスケットボールを辞めている。

泉州くんは、平人とは逆な感じがあります。
だからこそ、平人が参考にする(技術を取り入れようと思える)のかも知れない。

役割は違うけれど、水堂くんとは近くて。鏡みたいな関係に見える。
チームで戦おう、チームを強くしようとしているのに、仲間に頼ることは出来ない。1人で負担を背負ってしまった過去がある。

泉州くんは平人と水堂と部員、読者との間を埋めるようなキャラクターですね。

2年生

3年生より人数が多い2年生。
作品の中では何度も、「1人」と「チーム」という2つの軸が示されています。

泉州くんが起こした改革や、その後のゴタゴタを経験してるせいか、2年、3年は視野が広い。
泉州くんの改革は視野、視点を持っている人じゃないと許容できない(部活に残れなかった)とも思う。

2年生、3年生は平人のこともよく見ているし、好意的な解釈をしている。
この辺は1年生だった頃のゴタゴタで積んだ経験が活きているのだろう、と思います。

平人は後輩としてはかなり癖が強いと思うのですが、先輩たちは良いところを見つけてくるのですごいなと。
水堂くんのメンタルの弱さにも気付いていましたし。

平人、水堂他の1年生は「1人」で戦っている感が強くて、2年生、3年生はチームという視点を持っている。
貴市や慧、泉州といった個性的なキャラクターが多いのに、2年生にはまとまり、安定感を感じます。

3年生

そんな2年生も、この人たちがいなければ成立しなかったろうな~…と思わせるのが3年生。
泉州くんの改革に付いてこれた3人しかいませんが、3人という人数だからこその力強さを感じます。

女性キャラも魅力的

女性キャラはマネージャーのみやびん(瀧澤雅)、水堂のお姉さんの2人しか出てませんが、はっきりしていて親近感が湧くキャラクターです。好き。
16話で描かれた2人の絡みは楽しかったな~

指導者の視点

ちょっとキャラクター話から離れますが。
ライバル校ともいえる黄金山高校は、小松崎先生が名監督として紹介され、「小松崎先生がいるから強い」みたいな印象でしたが

個人的にはアシスタントコーチも指導者としては優秀だろうな…と思いながら読みました。
指導者がいる・いないの差もありますが、指導方法やノウハウ以前の、メンタルやマインドに差を感じます。だから黄金山は強いのだろうし、安定感があるのでしょう。

練習試合の中で描かれたちょっとしたことが「強豪が強豪たる由縁」を表していると思いますし、登場人物一人一人が、意志をもって生きている感じがあります。

まとめ

『B-TRASH!!』は1人1人のキャラクターが魅力的です。

私は登場キャラクター全てを愛せる(「箱」で推せる)作品しか読めない性分なのですが、『B-TRASH!!』は敵味方、生徒と指導者、先輩と後輩、男女など関係なく、全キャラを愛せそうな作品なので嬉しいです。

感想

※19話までのネタバレがありますので、できれば先に漫画を読んでください
LINEマンガ「B-TRASH!!」
***
『B-TRASH!!』はお勧め漫画なのですが、19話にたどり着くまでは結構しんどい作品だとも思います。
そうなる理由は、主人公である平人と水堂くんが、ほぼ自分のことを語らない。彼らの気持ち、胸の内、心情が描かれないからだと思います。

登場頻度が高い主人公に「共感できない」辛さ、主人公の背中かしか見えない疎外感がありました。

共感できない主人公

…うん。これが非常にしんどかった。

気が利く先輩たちのお陰でツッコミはされていましたし、漫画を読んでいて気付けない「平人の良いところ」や「水堂くんの弱さ」は理解出来るのですが、「2年生、3年生キャラは好ましいのに主人公は好きではない」という状況で読み続けるのは苦行に近いとも思いました(^^;

平人のこと、嫌いじゃないんですけど、とりつく島がなくて。
なんというか全然、握手できないしパス出来ない感じ。
バスケットボールをしているのに、ボールをずっと1人で抱えている感じ。いつまで経ってもゲームが始まらない。

21話まで読んだ現時点では、平人のことをちょっと分かった気になっていますが、彼が何を感じ考えているのか?は、未だによく分かりません。

第一話の視点

主人公・平人と読者である私との「分断」は、よくよく考えると1話で起きていたようで…。優にシンクロし過ぎてたというか、この場面で一旦、私も平人に失望しているのです。
結果として平人と自分との間に溝が出来ていたけれど、それに気付かずに読んでいました。

毎週、更新のたびに読んでいたのですが、平人との心の距離が全く埋まらず。

嫌いではないのですが、好きにもなれない。それは平人の言動ひとつひとつが問題というわけでもなく、勝ちに拘るけれど仲間を必要としない、心を見せない、彼の姿勢が理解できなかったのだと思います。

「1人で勝てるなら、なんでお前、バスケットボールやってるの?」みたいな、根源的な問いが自分の中にありました。
※今でも平人がバスケットボールをやる理由みたいなのはよく分からないです。

パスが通った瞬間

平人のことがちょっとだけ分かったのは19話です。
19話は非常に読み応えがあるので、1コマ1コマ丁寧に読んでほしいとも思います。私も感想書きながら気付いたことが多かったので。

スポーツをしていると「才能」や「体格」といった、自分ではコントロールできない部分での差が生じます。
でも、練習や模倣で埋められる部分や、1人でなくチームが埋める部分もあって。
だからこそ、スポーツは面白い。

オニ先輩は黄金山との試合から得たことを練習でアウトプットした。泉州くんが言っていた「黄金山を倒して全国を目指す」を、本気で実践してきた人なんだな…と思います。

次のページ。ゲームの流れを見ていた大藤くん(2年生)が、(平人であることを忘れて?)動きを指示。2人はその声に応えて動きます。

3年生2人は平人が「シュートを打つ」と予測する。
読者である私も、「平人なので自力でシュートを打つ以外はない」と思う。

これらの予想を裏切って、平人はパスを回します。驚く部員たち。
この場面が序盤のハイライトだと思うんですよ…!

ページを戻すと。
珍しく、平人の視点が描かれています。何故か平人が3人います。平人には「チームメンバーが自分に見えていた」ようです。

この辺は泉州くんが平人とのやり取りから考察した場面(19話前半)と重なりますし、19話表紙の5人の平人にも繋がります。

「チームメイトが自分に見える」というのは、平人の心情や視点のメタファ(比喩)なのか、本当にそう見えるのか分かりませんが(^^;)、「平人」という人間が見ている世界は、読者である私とは全く違うものだったのは確かで。

平人がパスをしてくれたお陰で、自分の中で何かが弾けて、腑に落ちて。
これだけ見えている世界が違うのであれば、私とは言動も違ってくるし、平人に共感できないことにも納得できました。

平人のパスが繋いだもの

作中の描写では、平人としては初めてのチームプレイだと思います。「1人で戦う」ことを旨としてきた平人が、チームで戦おうとした。
また、このプレイは泉州くんの模倣だった。19話のオニさんのディフェンスと繋がり、1年生(平人)、2年生(泉州)、3年生(オニさん)が繋がります。

そして、これは「読者である私へのパスだ」とも思ったんですよね。構図的にもこっちがわに投げてるし。

このパスが着火点で、平人との関係も、波高バスケ部というチームとの関係も、主人公と私という読者との関係も。すべてが繋がったように思えました。

平人と繋がった気がしたので、電子書籍版にするかどうするか…と悩んで、なかなか買えなかった単行本を買いました。
※夫や子ども、姉に読ませるために、紙の単行本にしました…。

19話を読んだ後で、18話、17話…と過去の話を読むと、今までモヤ~…として見えた風景から、霧が取り除かれます。
漫画は同じものだけれど、読者である私の解釈が変わったので、作品を深く読み取ることが出来るようになりました。

「1人」か「チーム」か、といったことはこの作品のテーマだと思いますが、19話までを総括すると、こういうことを描こうとしているのかもしれません。
※どうでも良いけど年を重ねると教師が話していたことをふと思い出すことも多いですよね…

今回は19話の解説を丁寧に書いてみましたが、WEB漫画では読み飛ばしてしまいそうなのが勿体ないですね。
紙の単行本で読み返すと、色々な発見があって楽しいです。

バスケットボールは分かってない

長々と感想を書いていますが、私はバスケのルールは分かっておりません…。
『B-TRASH!!』は、バスケが好きな人でも、あまり知らない人でも楽しめる漫画だと思います。勢いがある。

まとめ

19話までは序盤、「プロローグ」だと思います。
連載から1年と考えると長いけれど、3巻までで物語の地盤が出来た感じがします。

私は夏目さんの『モチモチ』や『White Tiger』も読んでいるのですが、この2作は基礎固めが終わる前に打ち切りになってる感がありまして。
『B-TRASH!!』もそうならないか心配だったのですが、無事、序盤が終わり、「本編」が読めそうで良かった…。

20話、21話では魅力的な新キャラクターが登場しました。対戦が楽しみ。

面白いから、みなさん読んでみて下さい!
単行本を買うか迷っているなら、間違いなく「買ってよい」作品だと思います。

私としては、『鎧伝サムライトルーパー』とか『聖闘士星矢』が好きだった人にお勧めしたいな。
スポーツ漫画としては、あだち充さんの『H2』が好きな人に勧めたいような。絵柄や雰囲気がだいぶ違うんですが、あだち漫画との共通点が多いと思っています。

B-TRASH!!(夏目義徳)

***
●この記事は「新波【ニューウェーブ】」特集記事の一環として書きました。「こちら」にまとまってます。

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