【読書記録】最近読んだ本メモ

『マンガ家になる! ゲンロン ひらめき☆マンガ教室 第1期講義録』感想

投稿日:2018年12月19日 更新日:

丁寧な方のレビューを書きました。
2部構成で書く予定です。

1)本を読んだ感想
2)『さよならことばたち』(草原うみ)のレビュー

今回は1)で、本の感想です。

先に結論ですが、2000円でこれだけ充実した内容なら買いだと思います。
熱いエネルギー、漫画への愛に触れることが出来ます。私はものすごく、やる気がでました。読んでよかった。

マンガ家になる! ゲンロン ひらめき☆マンガ教室 第1期講義録

『マンガ家になる! ゲンロン ひらめき☆マンガ教室』は、株式会社ゲンロンが2017年に設立したマンガ家育成スクール。
前身に2009年に講談社が設立した『ひらめき☆マンガ学校』があります。

※絶版してるけど『ひらめき☆マンガ学校』の書籍はこの辺です。読みたいんで電子書籍版で良いから出して欲しい…、


主任講師を評論家・マンガ原作者の「さわやか」さん、漫画家の西島大介さんが務め、マンガ家だけでなく編集者、評論家等幅広くマンガ界で活躍する人材育成を目指しています。

●公式サイト:ゲンロン ひらめき☆マンガ教室2017
●Twittr:@hirameki_P(ひらめき☆マンガ教室2期)

この本は、2017年に開催されたスクールの、招待講師(マンガ家10名、デザイナー1名、評論家1名)の講義やネーム講評、最優秀作品選考会、反省会(座談会)、最優秀作品を収録したものです。

A4サイズ、208ページ、1944円(税込)。電子書籍版はありません。

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内容紹介

絵がうまいだけじゃダメ、マンガが描けるだけでもダメ。
マンガ家として本当に成功するための、12人の人気作家が語るひらめきの技法。
業界騒然のマンガ家育成講義録!

Amazonの作品ページ「内容紹介」より引用

内容解説

装丁が凝っている

最初、手にした時、カバーが凝っているな~…と思いました。
本の内表紙、カバー、帯、の3段階で楽しめる構成になっています。

紙の色は青が基本ですが、白やオレンジ、黄色などあり、視覚的なメリハリがあって良かったです。

目次

目次はAmazonの内容紹介で閲覧できます。一部抜き出すと

はじめに さやわか
ひらめき☆マンガの六ヶ条
主任講師プロフィール

第1部 講義(12名分)
第2部 選考会・座談会
第3部 最優秀作品
さよならことばたち 草原うみ
付録

おわりに さやわか
講座情報

講義以外のページも充実していました。
情報がぎゅうぎゅうに詰め込んである印象です。

基本の構成

基本の構成は以下になります。

ゲスト講師の紹介2ページ。さわやかさんの解説が分かりやすく、知らない講師の方でも実績等がよくわかりました。

講演の内容7~8ページ。3段組で濃い内容ながら、スラスラ読めます。

西島大介さんによる後記1ページ。

これが12名分掲載されています。

QRコードでネーム、完成原稿が読める

ネーム講評のページなど、色々な場所にQRコードが掲載されています。

私は1回目は全文に目を通す感じで読んで、2回目はiPadminiでサイトにアップされたネームなどを見ながら読みました。
実際のネームや原稿があるので、作品がどう変化していったかを見ることが出来、楽しかったです。

気になったこと

先に気になったことを記しておきます。本ではなく、サイトについてが多いです。
多分、既に誰かが指摘していると思うのですが…重箱の隅をつつく感じですみません。

雑誌的な読み方が出来ない

この講義の肝の一つは「雑誌に掲載された時、読者にページをめくらせる技術」を習得することだと思います。ですが、ネットに上がっている作品群は「雑誌的な」読み方が出来ません。

iPadminiだと縦スクロールになります。指を下から上へとスワイプして読みます。
せっかくの見開きがこんな感じになってしまう。

パソコンだと見開きは見れますが、マウスでスクロールして2ページまとめ読みになる。視線の移動が全然違います(正直、読みにくくて頭に入ってこない)。

ネットで読む人数なんて限られるしそこまでやるか?とも思うんですが。勿体なく思いました。

例えばブクログの「パブー」を利用する、Kindleでセルフパブリッシング(Kindleインディーズマンガ)するなどして、雑誌掲載と近い形で読める状態を作っても良かったのでは。
「パブー」はKindleにも対応しており、Kindleなら見開きも閲覧可能です。

「雑誌に掲載される」「雑誌でのリーダビリティを高める」ことを目標とするなら、ネット上で公開する形もそれに沿わせて欲しかったです。

受講生個人別のページが欲しい

「プロフィール」ページに、個々人の作品を並べて欲しいです。

例えば2018年の受講生「なるとも」さんのページですが、課題の下に、本人の提出課題へのリンクをつけて欲しいです。提出していないなら「未提出」と書く。
今だと「完成稿提出者」の中の上位3名分しか閲覧できず、「プロフィールページ(個人の紹介)」になっていません。

プロフィールページについては、各自のTwitterアカウント等SNS情報は記載してほしいし、URLクリックで移動して欲しいです。作品を読んで、作者に興味を持ってもSNSアカウントをフォローできない仕様なのはどうかなと思います。
(セルフプロデュースの基礎の基礎だと思うんで…。トップブロガーさんはこういう小さい所が丁寧だったりします。)

ニコニコ動画の情報

講義はニコ動で見れるのですが、可能であればサイトにも情報を掲載してほしいです。
Twitterからは辿れるんですが、分かりにくかったです。
※ちなみに費用はチャンネル登録で月額10080円で見放題、過去の番組視聴は1回500円です。

ゲンロン完全中継チャンネル(ニコニコ動画)

電子書籍版がない

今は電子書籍派も多いので、電子書籍版がないのが勿体なく思いました。
本文の紙へのこだわりやQRコードの件もあり、電子書籍だと再現しにくい本だとは思うのです。
しかし、講談社時代の本や巻末の必読書の本が絶版していて手に入らないこともあり、出来れば電子書籍化を検討して頂きたいなと思いました。

気になったことはそれくらいです。

各講義について

第1講 横槍メンゴ

『クズの本懐』の横槍メンゴさん。
1988年生まれ(30才)、2009年(21才)デビューで2017年時点ではキャリアは8年目。

私は『君だら』しか読んだことないですが、女の子がめっちゃ可愛くて良かった。

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「マンガでいちばん大事なのは読みやすさ」という考えで、吹き出し内の文字サイズまで指定しているのには驚きました。
そもそも、サイズ指定できる事自体すごいと思うんですが。多分、フォント指定もできますよね…。編集さんや出版社の努力ですよね…。見えない部分で手間がかかっていることに気付かされました。

ネームを始めるときの「スピる」といった表現がいちいち面白かったです。

第2講 TAGRO

1995年デビューで、マンガ家歴は23年。代表作は『マフィアとルアー』『宇宙賃貸サルガッ荘』『変ゼミ』。
現在、「モーニング・ツー」で『別式』を連載中。

名前は知っていたけれど、作品は読んだことがなかったTARGOさん。
※『別式』1巻のKindle版が無料だったので読みました

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技術論よりも、漫画家としてのユニークなキャリアについて話していた講座でした。
サラリーマンをしていたけれど退職、フリーのイラストレーターを経て同人作家に…といったキャリアは今だと結構多い気がします。同人出身の作家さん、増えましたね。

主人公キャラの作り方の話が興味深かったです。
なんとなく主人公って、パッと出てくるような気がするんですが、色々考えているものなんですね…。

漫研の同期が赤松健さんだったり、編集長やったりしているっていう人脈がすごいな…と思いました。

第3講 こうの史代

1968年生まれ(50才)、1995年(27才)デビュー。映画化をきっかけに『この世界の片隅に』で有名になったこうの史代さん。

記憶違いかも知れませんが、20年前の「ティアズマガジン」で何度も見かけたような。
私は『桜の国、夕凪の街』と『この世界~』しか読んでません。

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双葉社
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講義内でも語られてましたが、こうのさんってロックな人!という印象が強くて。素朴な絵柄から思いつかないことを、色々実験的にやって来ている方です。

「物語はギリシア神話と旧約聖書ですべて出尽くしている」「物語は「選ぶ」くらいに思った方がいい」という感覚は、読み手である私にはよくわかりませんでした。ストーリーって最初に作らない方もいるんですね…。

でも西島さんが同意していたのでそういうものなのでしょう。なんだか不思議な気持ちでした。

第4講 武富健治

1970年生まれ(48才)、1997年(27才)にデビューし、漫画家歴20年の武富健治さん。
現在『古代戦士ハニワット』を漫画アクションにて連載中。

代表作は『鈴木先生』ですよね…。面白かった…。
※1巻のみKindleUnilimited対象

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27才でデビュー、35才のとき『鈴木先生』でもういちど漫画を頑張ろうと思って再挑戦し、『鈴木先生』を描いたという話は興味深かったです。
武富さんはこの本の色々なところに登場されていますが、熱い言葉が多くて、先生みたいな人だと思いました。

この講義の「物語」談義も興味深かったです。

第5講 コヤマシゲト

1975年生まれのデザイナーさんです。過去に漫画も描いています。
代表作は『SYAR DRIVER』『キルラキル』『ベイマックス』など。

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アニプレックス
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共同作業やコミュニケーションだったり、仕事相手の選び方だったり。
デザイナーなので漫画とはまた違った仕事の仕方のように思いますが、漫画は絵で構成されているので、「絵の作り方」(デザインの作法)を考えることは重要だと思いました。

「岡持ち」のエピソードで「できるかぎり少ない線で、かつだれもが岡持ちだとわかるデザイン」の話はモノのディテールに拘りつつ、労力(線)は最小限にする効率的な話のようにも思いました。

第6講 江口寿史

1956年生まれ(62才)、1977年(21才)にデビューなので漫画家歴は31年の江口寿史さん。
代表作は『すすめ!!パイレーツ』『ストップ!!ひばりくん!』

最近までギャグ漫画の面白さが分からない人間だったこともあり、漫画を読んだことありません。
イラストレーターとしての絵は素敵だなあ、と思って見ていました。

絵へのこだわり

絵へのこだわり、ギャグへのこだわりが半端ないなと…。
「絵のよさとマンガのよさは違う」「マンガとして好きなマンガと、絵として好きなマンガというのは違う」というのはその通りだと思います。

私も漫画はたくさん読みますが、絵が苦手でも下手でも、漫画として面白ければ読めます。
絵が好み過ぎて内容を気にしないで読んじゃう作家さんもいますが、そっちは少数派ですね。

ギャグマンガへの危機感

また、「いまはみんなギャグマンガをぜんぜん読んでない」という指摘はその通りで気になっています。
WEB漫画では見かけますが、雑誌だとギャグ漫画、4コマ漫画、エッセイ漫画といった「箸休め」的な作品のページは減っているなあと。

江口さんが今でもギャグ漫画を描こうとしていることには驚きました。
ギャグ漫画家さんて、ある種の求道者っぽいですよね。「ギャグ漫画道(どう)」を歩んでいく、みたいな。
個人的に、ギャグ漫画家さんのメンタルヘルスが心配になるんですが、江口さんも孤独な闘いを続けてるんだなあ…と。

出来れば、新作を描き切って発表してもらいたいな、と思いました。

第7講 田亀源五郎

1964年生まれ(54才)、1986年(22才)から漫画を発表し始めた田亀源五郎さん。
ゲイ雑誌『さぶ』に連載し知る人ぞ知る感じでしたが、『弟の夫』で一般層にも読まれるようになりました。

『弟の夫』は面白かったなあ。私はすっぱり終わって良しと思いますが、西島さんみたいに続編を期待する気持ちも分かります。

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田亀さんの講義で私が印象深かったのは生活基盤の話です。
「グラフィックデザイナーとして働きながら、会社員と作家の二足の草鞋で活動してきた」そうですが、漫画家専業ではなく、サラリーマンをしていて、売れたら専業になる人もいますよね。例えば田中圭一さん、しりあがり寿さん。

上述したギャグ漫画などもですが、雑誌はページ単位で原稿料を決めます。
短編は原稿料が少なく、単行本が発売されるストックが溜まるまでも時間がかかります。

今の時代、アシスタントを雇う作家も減っているので、ギャグ漫画、4コマ漫画、コミックエッセイなどページ少なめの作品を描きたいなら、生活の為と割り切って働くこと(メイン収入源を確保する)も必要でしょう。

第8講 師走の翁

1997年デビューの師走の翁さん。エロ漫画家さんですね。
私は大学時代に友達が買っていた『COMIC 阿吽』で読んでましたが、最近の作品は読んでません。

代表作は『シャイニング娘。』『ピスはめ』など。

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ここで紹介されていたネーム作成術や、ネーム上達の為に模写する、といった方法論は誰でも参考に出来そうに思いました。実践的。

模写する作品として紹介されていた、森田まさのりさんの『べしゃり暮らし』1巻~10巻は2018年12月20日まで無料です。
森田さんは「M-1」に参加したのをきっかけに、TV番組「ダウンタウンDX」に出演してました。それもすごいよな…。

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共感性について

課題に対する解説が面白いな、と思いました。
確かに、漫画は「共感」によって成立しているし、現在人気の漫画、時代を超えて読まれる漫画は「共感性」が高いです。

先の田亀源五郎さん、この後のヤマシタトモコさんもですが、エロ漫画やBL漫画出身の作家さんは、自身の作品、受けている作品をよく分析しているな、独自の方法論(具体的な行動)にまで落とし込んでいるなと感心します。
だから一般向けを描いても成功する方が多いのでしょう。
※一例ですがエロ漫画出身だと大暮維人さん、天王寺きつねさん、後藤羽矢子さん、鬼窪浩久さん。BL出身だとよしながふみさん、雲田はるこさん、雨隠ギドさんなどがいます

私はエロも読みますが得意ではないので(女なんで共感性が低い=よくわからんのです…エロ絵を眺めるのは楽しいですが)、師走の翁さんの一般向け漫画を読んでみたいと思いました。

第9講 今井哲也

1983年生まれ(35才)、2005年(22才)にアフタヌーン四季賞を受賞。
代表作は『アリスと蔵六』。

『アリスと蔵六』は兄に勧められて読んだのですが、めっちゃ面白かったです。女の子たちかわいい。蔵六さんかっこいい。
SFっぽい世界観で場面転換も多い気がしますが、読みやすかったです。世界観も物語も全然違うけれど、『よつばと!』を読んでる時と近い感覚で読めるのはすごいと思いました。

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「思いついたことが10あったら、3くらいまで削る覚悟を持つ」
「いろんな設定がぜんぶ積み重なっておもしろいというより、よくわかんないけどここはわかった、というほうが、読書体験として気持ちいい」
「だれに対して描くのか明確に」

…みたいな話はたしかに、と思いました。

今井さんの回はネーム講評なので、直すとたしかに読みやすいな、と感心しました。

第10講 横山了一

1978年産まれ(40才)、2002年(24才)デビュー。

代表作は『むすおれ』『戦国コミケ』。
わたしは『飯田橋のふたばちゃん』で知りました。漫画原作者だと思っていたので、息子さん漫画でバズった時は驚きました。

最近はSNSで活躍する漫画家としても有名な横山了一さん。
Twitter、Instagram、ブログ、最近はTikTokを始めてて、早いな~と感心しております。
奥様は漫画家の加藤マユミさん。TikTokの厳選ティックトッカーになったらしいです。すごいですね…。

SNS漫画の情報

私は2013年頃からずっと育児漫画の情報を追ってる人なので、SNS漫画には詳しくて。
雑誌掲載を目指しているので仕方ないのですが、SNS関連情報は薄いな~と思いました。

出版社に頼らない収入モデル

個人的に、横山さんみたいな、出版社に頼らない収入モデルは参考にした方が良いと思っています。

横山さんは
・雑誌連載
・WEB連載
・マンガ原作者
・ブログ
・広告漫画
・同人誌
・過去の単行本の印税
・PIXIV FANBOX
・講師としての講演
・子育てイベントのゲスト

…等、幅広い収入源を持っている方です。

有料のPIXIV FANBOXでSNS活動の様子を書いていらっしゃるので、SNSでの漫画発表に興味がある人はこれを読むと良いと思います。全て読める540円コースがお勧めです。
PIXIV FANBOX(横山了一)

SNS漫画のこと

私はブログ、Twitter、Instagram、TikTokで漫画を読んでいますが、SNS漫画としては4コマ漫画が最強だと思います。全てに同じ漫画をUPすることが出来るから。

また、4コマ漫画を描いてた人の創作漫画は読みやすいとも思います。
こうの史代さんが「ネームに詰まったら同じ大きさのコマに描いてみる」と語っていましたが、4コマやコミックエッセイの基本形式はそれで、アニメの絵コンテにも通じる描き方をしています。

余談ですが、今ならTikTokで漫画を発表し始めて、自由に色々試しつつ、Twitterやブログで情報発信したら注目されると思います。まだ、TikTokの特性にフィットした漫画が発表されてないと思うので、ブルーオーシャン、自由な空間です。

第11講 ヤマシタトモコ

1981年生まれ(36才)、2005年(23才)にアフタヌーン四季賞受賞のヤマシタトモコさん。
代表作は『BUTTER!!!』『HER』『違国日記』など。

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私はBL時代の『くいもの処 明楽』で初めて読みました。これ、初コミックスだったんですね。
「アフタヌーン」で連載していた『BUTTER!!!』や「フィールヤング」連載の『HER』『ひばりの朝』『違国日記』なども読んでいるので、今回の講師の中では一番知っている漫画家さんでした。

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ルールやセオリー

ヤマシタさんの講義ではキャラクターの話、ページの構成、掲載媒体の話など、共感できる発言が多かったです。

冒頭ですが「マンガを書くときに、自分が女性であることを意識したり、女性読者だけを想定したりはしません。また、キャラクターをつくるときに「女性」というくくりから考えはじめてもいません」「女性であるまえに人間」といった考えもそうだなあ、と。

ヤマシタさんの漫画に登場する女性キャラクターは、色々な困難や障壁があっても、基本、自分が選んだ道を歩いている感じ、自由さがあって。セリフや表情、行動に一貫性があるので、意外な行動を取られても、その人の思考のプロセスが読める。

健康維持を意識する

その中で特に重要だと感じたのは、健康への意識の高さです。筋トレをする、絶対に寝る。
20代は無理もきくし、その無理が経験値になる部分がありますが、30代超えて無理したら身体か心が壊れます。

基礎的な部分から応用まで、ルールやセオリーとして言語化できているのがすごいと思いました。

第12講 伊藤剛

1967年生まれ(51才)のマンガ評論家、東京号ゲイ大学マンガ学科教授の伊藤剛さん。
代表作は『デヅカ・イズ・デッド』『マンガ視覚文化論』など。
『デヅカ・イズ・デッド』、タイトルは知っていますが未読です。

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伊藤さんの講義で出てくる「マンガ観」が一番自分に近いかな、と思いました。
以下は伊藤さんの講義を受けての私見です。

SNS漫画のこと

創作ストーリー漫画がマンガ作品の量も売上シェアも1番多いと思いますが、WEB漫画との相性が良いとは言い切れません。
上でも書いたんですが、SNSで漫画を発表する時、最も効率的な形は4コマ漫画です。SNSの特性に左右されにくいし、パソコン、タブレット端末、スマホなどユーザーの環境にも左右されにくい。

ウェブトゥーン

ウェブトゥーンだと、韓国発のマンガは日本でも人気を得ていて。『外見至上主義』(元はXOY、LINEマンガに掲載)はPixiv主催の「WEB漫画総選挙2017」(インディーズ部門)にノミネートされていたと記憶しています。

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『外見至上主義』は日本向けにローカライズされており、登場人物の名前が韓国人から日本人になっています。
書籍説明に「日本版書籍でしか読めない”コマ割り仕様”」とあるので、韓国版単行本とは原稿そのものが違うようです。

最近だと東村アキコさんがウェブトゥーン形式で連載しています(『偽装不倫』元はXOY、現在はLINEマンガ連載)。

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また、凸ノ高秀さんが描いた全長25mの1コマタテコミ漫画『1コマの国のアリス』(「デジタルコミックにおける最長の一コマ漫画」としてギネス認定されている)は、流れるような読み口、場面転換が新鮮です。
…でも長すぎて途中で飽きました…。

1コマの国のアリス

端末のはなし

私は現在、主にWEB(サイト、アプリ、SNS)で漫画を読んでいるので、従来型のストーリー漫画の手法、例えば見開きについては再評価が必要だと感じています。WEBで読むと見開きは2ページに分断されるので。
Kindleであれば、タブレット端末を横にすると2ページ見開きで読めますが、読書体験としては微妙です。

ゲームやWEBサイト制作の分野では当然の認識ですが、漫画の閲覧環境がスマホ、タブレット端末、パソコンだとどう見えるか?を意識して作っている出版社はごくわずかに感じます。デジタルは端末(閲覧環境)によって体験が変わるので、その辺も踏まえた方が良いんじゃないかな?と。

WEB漫画と単行本

SNSで人気だった作品が単行本になった時のレビューで多いのが「●●(Twitter、Instagramなど)で見た時と印象が違う」という意見です。

ブログやSNSだと「いいね!」ボタンを押したり、コメントを書き込んだり読んだりするのも合わせて「漫画を読む」という行動になります。
他にはTikTokでも漫画が読めますが、TikTokだと音楽のリズムに合わせて漫画が描かれるので、読書体験が他とは大きく違います。

刺激があれば良いってものでもないですが、若い子がTikTokでしている読書体験は、紙の単行本を読んでも得られない、ライブ感のある何かです。SNS漫画には、ファンになって作者を応援する楽しみもあります。
それは出来が良い無料漫画を読むよりも、楽しいかもしれない中毒性があります。

SNS漫画の保存性

個人的に、SNS漫画での体験は単行本では足りない要素が多く、アーカイブ(保存)できないと感じています。
昭和の時代、貸本から漫画雑誌へと移行し、週刊誌になっていった漫画のワクワク感は父から聞いて知っていたりしますが、そういった新鮮な感覚がSNS漫画にはあります。

漫画が好きな人、研究している人には積極的に触れてもらって生き字引になってほしいものです…。

漫画の歴史について

マンガの歴史について学ぶなら、この本がお勧め。サンデー、マガジン、ジャンプが創刊される手前までのマンガの歴史を、漫画家のみなもと太郎さんが書いたものです。2巻はよ、と思いつつ1年半が経ちました…。

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総括座談会

聞き手の東さんの質問がいちいち的確で、大井昌和さんの補足も加わったことで、講義を読んだときにふわっとしていた感覚が言葉になって読めたのはありがたかったです。

目利きのマンガ読みの不在

ちょっと気になったのが「目利きのマンガ読みがいた」て話です。

漫画は現在毎月200~300冊近くの単行本が発売され、うち、新作が30作以上あったりする状況です。
新刊の棚で平積みできる作品が限られるし、初版が少なくて配本されない作品も多い。自分が追っている作品の発売を把握するので精一杯な感があります。

マンガ読みも、作家なり、ジャンルなりで注力するポイントを決めないと、読み切れません。
作家なり、ジャンルなりで絞ると、他の作品には疎くなります。

SNS漫画やWEB漫画を追ってると時間は溶けていきますし…(見つけた作家さんの過去ログを全部読んだりするので…)。
お金を確保するのも、時間を確保するのも、難しいですね。

「この漫画を読め!」の話

「この漫画を読め!」も「この漫画がすごい!」も面白い漫画を紹介しているけれど、後追い感が強く、若さが足りない感があるので私は参考にしてません。

個人的には読者参加型の「つぎに来るマンガ大賞」が一番参考になります。「単行本5巻以内」が条件だし、単行本未発売の作品でも良いので、知らない新作がランクインされることも多くて。
(今年8月に『王様ランキング』が話題になった元は「つぎに来るマンガ大賞」です)

専門家的な人の推薦漫画はそれはそれで面白いけれど、読者参加型コンテストの方が納得感が高いです。

今読むべき漫画は何か

結局、漫画の数が増えちゃってるので人によって違う気がします。
2019年は、最近ジャンプで連載が始まった『チェンソーマン』が話題を攫いそうですね。

個人的にはTikTokで「ゆゆお」さんの作品を読んで欲しいなあと。女子高生が鉛筆で、音楽に合わせて描いた、リズミカルな漫画です。毎日1回投稿しています。

高校生だから、いつアカウントが消えるか分からない感じも、過去ログを消しちゃいそうなところも、「今しか読めない」と思う理由です。

マンガのコミュニティを作り直す

「マンガのコミュニティを作り直す」という考えには賛同します。

私も漫画研究っぽい活動をしていますが、研究者同士で繋がれないのかな?…と思います。ソロプレイも悪くないんですが、情報交換する場が欲しいなあ…と。でも学会に加入したい訳ではなく…。私みたいな人、ほんと、いないんですよ…。

漫画の描き方を教える場としては「まんがたりティーチャー」というものもありますし、堀江貴文やコルクの佐渡島庸平さんが主宰する「ネットマンガラボ」もあります。

まずは小さなコミュニティを形成し、出来ればコミュニティ同士の繋がりも作れれば良いなと思いました。

まとめ

トータルで4回くらい読み直してるんですが、どこを切り取っても熱さを感じる、熱量の高い本です。

私はかなりやる気になったので、こちらのまとめを作っています。
現在11の記事を書いていて、最終的には20くらいになりますが、そのくらい読んだ人を突き動かす力を持った本だと思いました。

次の記事では『さよならことばたち』のレビューを書く予定ですが、私、この作品、よく分かりませんでした…。
なので辛口な感想になるかと思います。

提出課題としては最高の出来だったと思います。
私が12の講義を読みながら想像した漫画は、草原さんが描いた『さよならことばたち』のような作品だったので。
リーダビリティが高く、ページをめくらせ、最期まで読ませることが出来る作品として仕上がっています。

その一方で、足りない要素もあります。
その辺を伝えられるようなレビューを書きたいと思います。

それでは~。

***
感想書きました。

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