【発達障害】に関する育児漫画情報

『母親やめてもいいですか』(作:山口かこ/画:にしかわたく)感想~母親をやめた女性の赤裸々な告白

投稿日:2017年8月23日 更新日:

作中に登場するお子さんが発達障害児なので「発達障害特集」の一環として感想を書きますが、「親をやめたいと願い、離婚してそれを実現した女性の体験談」です。

しかし正直、読後感は良くないです。良くも悪くも、赤裸々に書きすぎている感はありますし、かわいそうな自分に酔ってる感もある。

私がこの本を評価するのは、作者自身の「思い込みの壁」や「常識の壁」に囚われた姿を描いているのと、ワンオペ育児の最悪のルートを示しているからです。
定型発達児を育てている人でも、同じルートをたどってしまうことはあり得ると思います。

amazonのレビューを読んで頂けると分かりますが、2013年の発売当初から意見は真っ二つでした。
レビューも参考になると思うので、そちらも読んで欲しいと思います。

元は2013年発売の大判サイズの単行本ですが絶版。2016年に文庫版が出ています。
文庫版は223ページ、680円です。(私が購入したのはKindle版です。)

(レビュー)
●amazon ★★★(3.4)※141件
●楽天 ★★★(2.5) ※2件

【内容紹介】

幼い時に父を亡くした私の夢は「家族をつくって平凡に暮らすこと」。
だが、不妊治療、流産を乗り越え、ようやく授かった娘は広汎性発達障害だった。

娘が幸せになる手がかりを探して療育に奔走するも、わが子と心が通いあわないことに悩む。
さらに将来を悲観し、気づけばうつ状態に。

チャット、浮気、宗教…現実逃避を重ねるなか、夫に突きつけられた離婚届。
娘と離れ、徐々に現実から目をそらし逃げていたことに気づくのだが…

「親は子どもの幸せを諦めてはいけない」娘の障害受容ができず、一時は死をも考えるほど、どん底に落ちた著者の絶望と再生の物語。
amazonの内容紹介ページより引用

【感想と解説】

作者のプロフィール

この漫画は、作者と作画担当は別です。

作者の山口かこさんは、1975年愛知県生まれの女性。
現在はライターとして執筆活動を行っているそうですが、検索しても記事などは一切表示されないので、今作の為の偽名と捉えています(個人的にはお子さんなど関係者の名前も偽名だと思っています)。

漫画担当はにしかわたくさん。漫画家・イラストレーターとして活動しています。
原作付きのコミックエッセイを何作も描いているようです。

山口さんのお子さんは、「広汎性発達障害」と診断された娘・たからちゃん(2002年誕生)。

漫画の構成

目次はこちら。

1章につき9ページの漫画のあとに、山口さんの文章が2ページくらい挟まれます。

間に5回×4ページ、精神科医の杉山登志郎さんと作者山口かこさんの対談が入ります。
2013年当時の情報なので、説明されている内容は古いです。

この漫画の特徴


・自分が被虐児だと気付いていないこと
・子どもを好きになれず、母親を辞めた体験談であること
・孤育てで追い詰められた人の失敗談が描かれていること

昨日紹介した十子さんの『でこぼ子育児日記』は、「ふつうの子と同じことができない」息子・といろくんを育てる上で色々な葛藤をしながら、診断を受けた後は子どもの障害を受け入れていった体験談でした。

今作は逆で、色々な葛藤の果てに、母親であることを放棄する物語です。

子どもが発達障害と診断されたことをきっかけに、ネット中毒、育児・療育放棄に至る。
不倫に走り、離婚し、親権は父親が持つことになり、母親を辞めます。

ただ、母親を辞めた(離婚して子どもと離れた)ことがきっかけで、娘をきちんと見れるようになる。
作者の身勝手な行動に腹が立つ部分は多々ありますが、山口さんの体験としては、こうだったのでしょう。

娘・たからちゃんの発達障害の症状

広汎性発達障害のタイプのうち、「受動型」と言われるタイプです。

・泣き止まない?(赤ちゃんの頃)
・笑わない/反応が薄い(赤ちゃんの頃)
・初めての発語は1歳5か月の頃
・触覚過敏
・かんしゃく

基本的には、母親である山口さんを中心とした物語なので、たからちゃんの描写はあまりありません。
「ふつうの家族を持ちたい」と夢見ていたこともあり、たからちゃんに発達障害の特性が見えたのはショックだったようです。

自分が被虐児だと気付いていない?

私自身は定型発達の子を持つ親なので、発達障害の子を育てる作者の本当の苦しみ、悩みは分かりません。

しかしちょっと気になるのは、山口さんの体験談は、単純に”子どもの発達障害を受け入れられず道を誤った”のではなく、母親からのネグレクトによって生じた「人間関係への依存」「認知のゆがみ」「虐待の負の連鎖」があるように思えました。

自分の母との関係性

読んでいて「母親に放置されてた感」はとても強くて。

作者の山口さんは、父親が早くに亡くなり、母親に育てられました。

「ネグレクト」と言うまで酷かったかは分かりませんが、山口さん本人が母親とのコミュニケーションに納得感がないのを見ると、「足りてなかったのだろう」とは思いますし、実母との関係が娘・たからちゃんとの関係へと負の連鎖を起こしているように思えてなりません。

作者の「思い込みの壁」や「理想の高さ」

上述した負の連鎖とも繋がりますが、山口さんはいわゆる「アダルトチルドレン」の特徴があると思います。
他人の評価を気にし過ぎる、衝動的な対応、完璧主義、表面的に愛情を示してくれる人にしがみついてしまう、等々。

アダルトチルドレンチェック

「家族をつくるのが夢だった」。これ自体は問題ないと思うのです。

大学を2回留年、漫画の中で描かれる性格を見ると不安しか感じない夫と、23歳でのスピード結婚(大学卒業後すぐ結婚)。

どうも衝動的な感があって。最速で自分の夢をかなえる(家族をつくる)為に、夫と結婚したようにも見える。

1年経っても子どもが出来ないから産婦人科で治療を受けに行く。「え、結婚後1年で不妊治療!?まだ24歳とかでしょ??」と思いました。タイミング法で済みそうな気もするのですが…(卵管検査を受けたり若くても不妊症と診断されたりしたのかも知れませんが、詳細は記載なしでした)。

たからちゃんの療育についても、勉強しまくって受けに行き、ふと「障害だから治らない」と落ち込む。
この辺は実際にそういった迷いがあるのかも知れませんが、他の作家さんの体験漫画に比べると、結果を急ぎすぎ・焦り過ぎな感があって。

感情の浮き沈みが激しく、物事をきちんと掴めていない感じがあります。

母のこと、夫のこと、たからちゃんのこと。
作者自身が「自分はまともだった」と思っている時期でも、きちんと自分が見えていたのだろうか?と不安になります。

若くして結婚・出産・育児をしているせいもあるとは思うのですが…。

個人的にネット中毒になったり、チャットにハマったり、不倫に走ったりしているのは、「たからちゃんの発達障害」がきっかけとは思いますが、作者自身の性格というか、被虐体験による心の穴に気付いてなかったことではなかろうか、と思うのです(後述しますが、夫婦関係が上手くいってなかったのもあると思う)。

子どもを好きになれず、母親を辞めた

「子どもを可愛いと思えない」と公言する方はほぼいないと思いますが(批判されますから)、そこまで不自然な話ではないと思うのです。

私自身も、子どもが可愛いと思えない時はあります。特に1人で育児をし、疲れている時はイライラもするし、面倒くさい、子どもと離れたいとも思う。普通のことです。

両親(特に母親)からの被虐の体験を描いた武嶌波さんも、「子どもを好きになれない」という悩みを描いていました。
山口さんも母との関係が上手くいっておらず、近い悩みを抱えたのではないかと思います。なんとなく似ている。
『私がダメ母だったわけ』(武嶌波)感想~親から子への負の連鎖~

たからちゃんの障害についても、実母は懐疑的だったようです。

一方で、たからちゃんを1日預かったり、義理の実家に迎えに行ったりと、育児には協力的にも見えます。

作中で描かれた義理の母はたしかに立派だとも思うけれど、見方を変えると実の母への評価も変わった気がしました。

頼る相手がおらず、1人で孤育てした女性の失敗談

実母との関係性から、気軽に相談できる状態ではなかった。
更に山口さんは「夫に遠慮があって、頼れなかった」とも思うし、「夫に親としての自覚が薄かった」とも思います。孤立していた感がある。

夫婦間の紆余曲折もあったでしょうが、発達障害に興味を持たない、育児に参加しない夫は、見ていて悲しくなって来ます。
夫の働きかけ次第では、ネット依存や浮気に走ることもなかったのではないかと。
山口さんも悪いと思いますが、夫婦2人で悪循環を重ねている感はあります。

新興宗教に参加するといったエピソードも描かれますが、父親が子育てに参加しないで母親に全部ひっかぶせた場合の「if」のひとつとして読むのは良いと思います。
個人的には父親に読んで欲しい気がする。最悪、ワンオペ育児はここまで至るのだと(想像以上でした…)。

相談相手は実母や夫だけではなく、作中にはママ友も登場します(それがきっかけで宗教に入ったりもするのでアレですが…)。
療育先や病院など、相談相手を増やすだけでも違ったのではないか、とは思います。

発達障害児の「心の理論」

たからちゃんと関係を築く難しさは、読んでいて辛くなりました。

だんだんと、「たからちゃんは寂しいと思わない」といった間違った考えに染まっていき、放置していく様子が描かれますが、この部分を読んでいて「実母との関係にこれと近いものはなかったのだろうか」とも思いました。

離婚後、9歳になったたからちゃんの反応をみた場面が描かれます。

対談でも「定型発達のお子さんと、ちょっと時期はずれるけど、必ず愛着が出来るということが分かって良かった」と話していましたが、こういったことを描いてる方はいなかったですし、自閉症の書籍にもなかったので、そこを描いたことは評価したいと思います。

まとめ

感想を書いていても思うのですが、もう少し状況を整理して描いていたら理解・共感しやすかったのではないかな、とは思います。
原因ときっかけは別のもので、「子どもの発達障害の診断をきっかけに、崩壊していった夫婦の物語」ではあると思うけれど、ふつうに読むと「作者自身や夫婦の問題を、子どもの発達障害に全てひっかぶせた話」になるのではないかと。

私自身もそう思う部分はあります。
最後に元夫と、娘・たからちゃんへの手紙が収録されているのですが、「こりゃ自分に酔ってるな…」とお寒いと気持ちになりました。

一方で、こういった漫画は今作しかないと思いますし、反面教師、バッドエンドルートの1つとして読むのも悪くないと思います。

山口さんの場合は、離婚をきっかけにたからちゃんや実母への見方が変わっているので、遠回りな感はありますが、それはそれで悪い道ではなかったとも思います。
夫婦で話し合って問題を解決し、子どもの療育に努め、「家族をつくる」という夢をかなえることが出来れば一番ですが、そうならないことの方が多いのもまた、事実で。

読後感はよくないし、読み手のストレスも相当なものなので「お勧め!」て感じはないのですが、学びには繋がるように感じました。


***

この感想は「発達障害特集」の一環です。今まで書いた「発達障害特集」の記事はこちら。
発達障害に関する育児漫画

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