【発達障害】に関する育児漫画情報

『はざまのコドモ』(作:君影草、画:沖田×華)感想~支援が必要なのに受けることができない親の苦悩

投稿日:2017年7月21日 更新日:

発達障害を持ち、知的障害ボーダーの息子と作者自身を描いた漫画です。
健常者と障害者の「はざま」がこんなに大変なのかと…。支援が必要な人が支援を求められない現状について考えさせられました。

128ページ、1080円(税込)です。KindleはUnlimited対象。

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(レビュー)
amazon ★★★★(4.1)

【内容紹介】

荻上チキさん大推薦!
発達障害をもち、普通学級での学習や日常生活が困難なため、特別支援学校への進学を希望するも、知能テストの結果が規定より高かったため、療育手帳が取得できず進学が許可されない…!?
そんな「はざまのコドモ」の日常とその母親の奮闘を、大人気漫画『毎日やらかしてます。アスペルガーで、漫画家で。』『透明なゆりかご』の沖田×華が描いた、ノンフィクションコミックエッセイ!
amazonの内容紹介より引用

【感想と解説】

作者のプロフィール

原作者の君影草さんは漫画家、イラストレーター。
漫画家・沖田×華さんのアシスタントでもあり、その縁で今回の漫画を描いてもらったようです。

家族は息子・ヨシくん。
作品でも描かれますが、ヨシ君が小4の頃離婚し、シングルで育児をしています。

現在はネット活動はしていないようです。

●作者ブログ「まいたけホームページ
●Twitter:@kimi_kagekusa

漫画に描かれているのは、2008年までの体験です。約10年前になるのでちょっと古いと感じるかも知れません。
当時、東京都に住んでいたようです(pixivの「はざまのセイカツ」に描いてありました)。

漫画の担当は沖田×華さん。沖田さんも発達障害です。

知的障害ボーダー

『はざまのコドモ』で描かれる「はざま」は知的障害者と健常者の「はざま」です。

作中で描かれるヨシ君はIQ85(小1時点)でした。
療育手帳を交付されるのはIQ75以下です。

作中でも触れられていますが、「リタリコ 発達ナビ」にも”境界知能は70~79”とされています。
知能指数(IQ)とは?知能指数の定義や知能検査の種類、知能指数の値と疾患・障害の関係は?

境界知能(知能障害ボーダー)の問題点は、

・療育手帳をもらえない

(結果として)
・特別支援学校に入れない
・支援学級にも入れない

IQ85だと「平均の下」という判定。しかし精神発達は他の子より2年遅れ。
勉強にはついていけない。しかし療育手帳がないと支援学級には入れない。

支援が必要なのに、支援を受けることが出来ない状態に陥るのです。

この件、2008年以前の話なので現在は違うのかな?と思って調べましたが「IQのみで判断する」状況は変わりないようです。
うーん。IQが平均の下で学習障害(ディスレクシアなど)も併発していると勉強についていけない気がするのですが…。
普通学級で「合理的配慮」をしてもらうしかないのが現状なのかなあ…?
発達が気になる息子が「IQの壁」を超え療育手帳を取得するまで(リタリコ)

中心的に描かれるのは小学生時代です。
知能指数が変化するせいで特別支援学級に入れてもらえない。でも普通学級での勉強にはついていけない。

今作では「知的障害ボーダーとして学校に通うことの難しさ」がメインテーマで、学校や教師の対応、親の孤独が描かれます。
知的障害ボーダーの子どもとどう接するか?とか、どう療育/教育していくか?といった話は一切ありません。

漫画の構成

まえがき漫画2ページ、1話10ページ×全12話、あとがき漫画1ページで構成されています。
東京都発達障害者支援センターの山﨑順子さんによる文章コラムが2本(各2ページ)。

この漫画の特徴


・親の孤独感
・知的障害ボーダーの息子を描いていること
・生まれた時から中学に入学するまでを描いていること

『はざまのコドモ』というタイトルですが、親の方が登場頻度や描写が多いと思います。

親の孤独感

理解のある人、協力的な人の話も描かれているのですが、親である君さんの孤独感がヒシヒシと伝わってきます。
描写はさらっとしていますが、何度も描かれます。

幼少時代、ヨシ君が眠らないことを医師に相談すると「子どもを病気にしたいワケ?」と説教される。
睡眠障害では?と気付き専門医に相談し、保育士に記録を依頼すると「ヨシ君を障害児にしたいんですか?」と質問される。

障害に対して偏見がある教頭、理解のない担任との交渉。

被害を受けた側の意見なので、病院や学校側から見ると見え方が違うかもしれませんが、その辺を割引いても酷いと感じます。

小学校は進学校だったようです。
私の認識だと小学校で進学校=私立です。教頭が異様に学力に拘ったり、教師が強気で発言したり、教育委員会の反応が薄いのはそのせいかも知れません。

友達ができない

発達障害はある、知的障害もある。けれど友達と遊んだり、本を読んだりすることは出来る。
健常児と障害児のはざまのコドモ。

支援学級に通う子、療育している子とは悩みが違うため、他の親と友達になれない。
ネットで仲間を探しても、同じくらいの年齢で似た症状の人は中々見つからない。

親である君さんが孤立し、気軽に相談したり愚痴が言える相手がいない。
そして夫は浮気をし…。多額の借金もあり、離婚…。

発達障害児を持つ他の方の漫画でも「理解されない」という話は描かれているのですが、例えば夫がいたり、小児科医が頼りになったりして相談先が存在しています。

君さんには相談先がなく、その時その時、なんとなく善意がある人が現れて助かる…という綱渡りの状態です。そこが読んでいて辛かった。

息子・ヨシくんの発達障害

1996年生まれの息子・ヨシ君。病院では「知的な遅れもある広汎性発達障害」と診断されます。
作者さんが描いた「はざまのセイカツ」を読むと「自閉症」とあるので診断が変わったのかも知れません。

作中で登場した発達障害と思われる症状はこんな感じです。

・おっぱいへのこだわり
・授乳以外の時は泣きっぱなし
・睡眠障害(寝ない)
・感覚過敏(長ズボンがはけない)
・多動
・背中の筋肉が弱い(座る姿勢を保てない)
・噛み癖
・自傷
・字を書くのが苦手

発生から対策までしっかり描かれるのは睡眠障害だけで、他の発達障害についてはヨシ君の行動の一つとして描かれる程度です。

産まれて間もなくから、寝てくれず、授乳するとき以外はずっと泣かれた体験…。
本当に大変だったと思いますし、個人的にはその後の体調不良(全身が痛み、歩行に杖が必要になった)にも繋がっているように思います。睡眠不足の与える影響は本当に大きいので…。
(そういった症状はなかったようですが)3年以上まともに眠っていなかったら、精神的にもおかしくなると思います…。

睡眠障害は発達障害の二次障害として発することが多いようで『デキバカ』(ひろせみほ)や『話せない、聞こえない。それはさておき、息子カムは今日もゆく。』(しおり)に登場する子どもたちも睡眠障害を抱えています。
子どもの睡眠障害とは?自閉症・ADHDなど発達障害との関係はあるの?症状・対処法まとめ

中学入学までの道のり

親である君さんが「ヨシ君は発達障害かも?」と疑い始めたのは3歳くらいの頃(2000年頃)。
この時、色々な病院で診てもらったけれど診断されませんでした。

入学に際し「睡眠障害がある」ことを相談し伝えていますが、支援級に入る等は検討していません。

小学校入学後、教師から「発達障害か自閉症では?」と言われ、検査を受けて知的障害を伴う「広汎性発達障害」と診断されます(2002年頃)。
その後補助員がつき、週1回の療育に通い始めます。

小学校は普通学級に6年間通いました。
途中で支援学級を希望しましたが、IQが高く、支援学級に入れなかったのです。

中学校はヨシ君本人の希望もあり、特別支援学校を希望します。
しかし、特別支援学校は療育手帳がないと受け入れてもらえないとのことで、支援学級のある中学を選びます。

「障害者手帳」の他に「療育手帳」があること、「療育手帳がないと支援学級に入れない」等支援が受けられないこと。
そんな状態があることも知らなくて。必要だと要望したら、支援してもらえるものと思ってました…。

理解のない教師

障害に理解ある対応してくれた教師もいたのですが、教頭と5年生からの担任は本当に酷かったようで…。

支援学級に入ることは断られる。一方で、他の学校に行くように電話で勧められる。
「執拗に勧められた」とあるので、何度もかかってきたのでしょう。

「ちゃんとしないと転校だぞ!」とヨシ君を脅す。授業中に「やる気がないなら帰れ!」と怒鳴る。ヨシ君を無視する。
作中に描かれた担任の行動は、単なるいじめです。

発達障害者支援法が施行されたのは2005年。
特別支援教育制度が施行されたのは2007年。

ヨシ君が5年生(11歳)なのは2006年頃。
特別支援教育制度施行から10年経った2017年現在はマシな状態になっているとは思うのですが…。
amazonレビュー読んだらマシになっていると書いている方が多くて安心しました。

まとめ

感想というか粗筋を書いているだけみたいで申し訳ないです。

いや本当になんと言ったらよいのやら…。

親の事情を描きたかったというより、結果としてそうなった感があるのですが。
「発達障害を持つ子どもを育てること」より、「適した学校に通わせること」「仕事を続けること」の大変さが伝わってくる作品でした。

仕事についてはそんなに描いてないのですが、君さんのように在宅仕事(漫画家)でない人は仕事を続けるのも大変だと思う…。
療育に付き合うのが大変なのではなく、学校や教育委員会等、関係者への相談、学校からのクレームの対応が本当に大変そうでした。

しかし、小学校選びは重要ですね。
今作では、息子・ヨシ君が診断されてなかったこともあり「家の近くの小学校に」と単純に決めてしまっていて。
過ぎたことを言っても仕方ないのですが、普通学級から支援学級に行くことは出来るけど、難しい部分もあるようなので(この辺はトマコさんが描いてます)、早い時期に相談し、対応することが重要だとも思いました。

はざまのセイカツ

Pixivでは、作者の君影草さんが描いた「はざまのセイカツ」が公開されています。
こちらは、息子・ヨシ君の生活する様子や、子育てをする上での悩みが伝わってきます。

はざまのセイカツ[イッキ読み](Pixiv)

***

この感想は「発達障害特集」の一環です。今まで書いた「発達障害特集」の記事はこちら。
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