漫画家のスズキユカさんが、ご自身の不妊治療体験を描いた漫画です。
ネット上の評価が高く、「不妊治療をしていない人にも読んでほしい」との声が多かったので購入しました。
読んでみて納得。描いてある内容は決して軽くない。むしろ重く辛く苦しい。
けれど、かわいらしい絵柄、テンポよく読みやすい雰囲気でサクサク読め、頭に入る。
独身の男女、新婚のご夫婦など、子どもを授かりたいと思っている人に是非読んでほしい内容でした。
121ページ、926円(税込)です。
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amazon ★★★★★(5.0)
楽天 ★★★★★(4.67)
【内容紹介】
「欲しいのに出来ない――」。不妊に悩む人が多くなってきた昨今…。
この作品は作者が3年間の不妊治療の結果、赤ちゃんを宿すまでの治療内容と体験した人にしかわからない、本音の気持ちを綴ったエッセイコミックです。
「木場公園クリニック」の吉田淳院長を監修に向かえ、ためになる記事コラムも多数、収録しています。
【感想】
私は不妊症治療を経験していませんが、結婚して5年、子どもが出来ませんでした。
結婚したのは29歳のとき。さっさと子どもを作りたいな~と思っていました。
そして”子どもなんて避妊しなければすぐ出来る”と思ってました。そんな風に思っている人は結構いるのではないでしょうか。
実際にはなかなか授かることが出来ず、結婚から3年経った頃には両家の両親から「子どもを作る気はないのか?」と尋ねられるようになりました。
その後、旦那さんには伝えずに、1人で基礎体温をつけて排卵検査薬を購入し、自己流でタイミングを計ってセックスに誘ってましたが、出来ない。
「不妊症の検査を受けようか…」そんな考えが頭に浮かび、でも…と打ち消すような日々を送っていました。
今振り返ると「自己流だから失敗していた」だけな気もしますが、当時は相談する人もおらず、ネットの情報を見聞きしては更に不安を深める。そんなことの繰り返しでした。
この漫画を、そんな不安な日々を過ごしていた自分に届けたいと思いました。
作者の体験は辛くて苦しくて、目を背けたくなるような苛酷さがありますが、学べる部分がたくさんありました。
作者のプロフィール
スズキユカさんは1971年生まれ。代表作は『おうちでごはん』『女王の百年密室』(原作:森博嗣)の漫画版など。
25歳で会社員のダンナ様と結婚。
30歳(2001年?)くらいから妊活開始。2年間避妊しないのに、子どもができない…。
とりあえず、検査だけでも受けようか?……きっと不妊症ではないと思うし…。
しかし実際は、検査を受けてから怒涛の不妊治療の日々が始まったのです…!
漫画の構成
1話6~12ページ、不妊治療編が12話、後日談が3話、合計15話が収録されています。
漫画の他に不妊治療に関するコラムが7本。
コラムは不妊症を疑って病院に行く前に学ぶポイントや、治療方針の決め方、サポート機関の紹介など。
読みやすくポイントがまとまっていると感じました。
コラム後にはおまけの本音らくがき。グサッときます。
内容解説
この漫画は、治療期間約3年、人工授精3回、体外・顕微授精3回、胚移植4回、治療費総額約360万円の闘いの記録です。
治療期間は3年ですが、子どもが欲しいと思って避妊しなくなってからは5~6年くらいの時間を経ています。
目次の通り、不妊治療については網羅しているかと思います。
検査を受け、タイミング法を試し、人工授精(AIH)→顕微授精→→胚移植→2回目の顕微授精+胚移植→不育症検査→3回目の顕微授精+胚移植…と、1話ごとに治療内容がステップアップしていきます。
不妊症検査
検査は保健適応外だからお金がかかりますよね…。
病院によるし、検査内容にもよるでしょうけれど、作者の最初の検査は5万円。
コラムに「病院に行く前に調べておくこと」がまとめてあり、病院を選ぶ際に便利だと思いました。
避妊しないで自己流に妊活していて2年くらい経っているのであれば、不妊症専門の病院に行って相談した方が良いと思います。
それにしても、卵管ってこんなに長いんだな…。もっと短いイメージでした…。
タイミング指導
産婦人科で排卵のタイミングを指導してもらい、排卵日に合わせてアタック!(※作中の表現)
排卵のタイミングについて、私は単純に「生理から14~15日目あたり」…と思っていましたが、生理後10日と早めの人もいれば、20日後という遅めの人もいるそうで。この辺も体質により十人十色なのですね…。勉強になる。
私は市販の排卵検査薬「ドゥーテスト」(12本入り、2011年頃は3800円+税)を使ってました。薬局で保険証を見せて購入できます。
病院に通うことがストレスになるなら、市販の検査薬を使うのもありかと思います。
人工授精
人工授精(AIH)の妊娠率って、5%程度なんですか!?低いですね…!(正確には、精子の運動距離が短くなるだけなので、妊娠率は自然妊娠の場合とほとんど変わらない→5%、のようです。)
私が過去に読んだ妊活本は、人工授精を推奨しないものが多かったのが不思議でした。
どちらも2013~2014年発売だから、最近はこういった方針の医師や患者さんが増えてきているのかも。
この漫画を読むことで、花津ハナヨさんが『妊活→出産一直線!』の中で人工授精を飛ばしたり、『35歳からの妊娠スタイル』という本で”戦略的に人工授精を飛ばして体外受精に…”といった文章が出てくるのに納得がいきました。
インターバル~不妊治療中の夫婦関係
私が不妊症の検査を受ける勇気が出なかったのは「夫婦関係を壊してまで子どもが欲しいのか?」という疑問が大きかったからです。
検査を受けて原因が特定されたとき、相手を責めないか?相手が私を責めないか?と心配してしまって。
身体的、精神的な負担だけでなく、金銭の話も絡む上に、終わりが見えない闘い。
場合によっては、自分たち自身でピリオドを打つ必要がある(…『妊カツ!』を描いたあらいきよこさんのように、諦めたら子どもが出来た…という話もあるのが嬉しくもあり悩ましくもある…)
始める前、始まってから、定期的に話し合いを持つなど、お互いの本音を伝える必要があると感じます。
顕微授精
卵子と精子を取り出して、体外受精と顕微授精をし、胚を子宮に戻す…という治療。
薬が増え、注射が増え、専門用語が増え……。
でも漫画自体は読みやすくて、読んでいて混乱することはない。そこがすごい。
凍結胚の胚移植
受精卵を凍結しておき、それを子宮に戻す治療。
注射打ちまくりでお尻がぼっこぼこで刺す場所がないとか…。表に見えない話もあり…。
やっと着床した!…と盛り上がったのに、突き落とされる回でもあります。
体外授精であっても自然流産確率は同じ…。そりゃそうですよね…。
不育症検査
2回の流産を経験したため、不育症の検査を受けることに。
検査内容や治療については軽めの内容でしたが、病院でのやりとりの様子がわかりやすかった。
そして、不妊治療の担当医師(吉田医師)の言葉がステキでした。
好きなところ
目次や上の解説でもわかるかと思いますが、かなりヘビーな不妊治療体験記です。
読んでて泣けてくるくらい、長い、長い、先の見えない、戦い。
作者は不妊治療を「すごろく」に例えています。
これにはさらっと「そうだね」と同意してしまいそうですけど、読めば読むほど意味深長。
自分のことなのに、先のことなどわからない。サイコロ次第で止まったコマに、書いてある言葉には絶望しか感じない。
1回休み、5コマ戻る、10コマ戻る、ふりだしに戻る…。そもそも上がりがあるのかどうかさえ、わからない。
愚痴も不満も、「普通に妊娠できる人」に対する恨みつらみも、描いてある。
その一つ一つは「普通に2人を妊娠した私」にも当てはまる言葉でもあります。
でも、作者の言葉の一つ一つを「素直な言葉」として受け入れることが出来て。
きっと、子どもを望んで日々戦っている多くの女性は、こんな風に思い、感じるのだろうと。
経験してないから辛さは分からないのですが、この漫画を読むまで、体外受精や顕微授精で受精した卵子を移植しても流産することがあるなんて、想像しなかった。
不妊治療と不育症治療を並行して行う可能性も、知識としては知っていたけれど、ピンと来ていなかった。
仮に友人が作者と近い状態になった場合、励まそうとするであろう自分に気付いて。
愚痴っぽいとも感じないし、読んでいて彼女の戦いから目を背ける気にはならない。
だからといって、妊娠している自分が後ろめたいとも思いません。
それは作者が、絶望の裏にある自身の成長を描いているからでもあり、周囲の人たちへの感謝の気持ちも描いているからだと思います。
まとめ
最後に作者が戦いに勝利した姿も描かれます。
ヘビーな内容ですが、不妊症の治療や不妊症と戦う女性の気持ちについて、これだけ頭に入りやすい作品も珍しいので、色々な方に読んでほしいと思います。