【書評】妊娠育児の創作漫画

『Spotted Flower』1巻(木尾士目)感想~予想以上に人を選ぶ作品だった…

投稿日:2014年4月28日 更新日:

※閲覧注意!※
作品に批判的な感想です。
「おもしろかった!」という感想を探している方は読まないでください。

↓好意的な感想を書かれたブログはこちらをどうぞ。ネタバレありです。
Spotted Flower 1巻(ネタバレあり)(俺之脳髄(オレズイ))
Spotted Flower 1巻(でこぽん日記 其の弐)

amazon ★★★★★(4.5) ※レビュー4件
楽天 レビューなし

【内容紹介】

「げんしけん」の作者による甘くて苦いオタクな旦那と非オタクな奥様のセキララな新婚日記。
コスプレ好きな大学時代の友人も加わって大騒ぎな毎日です。

【解説】

この作品は
・妊娠中(妊娠6-7ヵ月くらい?)の妻と夫を描いている
・妻は非オタ、夫は萌え系のガチオタ
・オタクネタ多め、エロネタ(セックスネタ)多め
・『げんしけん』を元ネタにした作者のセルフパロディ

…といった内容の創作漫画です。

この感想を書いている管理人・matsubiはこんな人です。

・既婚女性、現在第2子妊娠中
・木尾士目作品は嫌いではないが、最近『げんしけん』のスピンオフとか続編ばっかりで読む気がしない

(好き→『四年生』『五年生』『げんしけん』、面白いと感じない→『ぢごぷり』、読む気にならない→『げんしけん二代目』)

「人を選ぶ」と思う要素は『げんしけん』のセルフパロディであること、「妻が妊婦である」という設定の2つです、
amazonレビューも他ブログの感想も評価が高いので、楽しめる人の方が多いと思います。

『げんしけん』を読んだことがあり、表紙絵や↓の絵を見て「これ斑目×咲でしょ!!」と思えた人、斑目×咲を望んでいた、想像できるという人は問題なく楽しめるのではないか?と思います。
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逆に表紙や↑の絵を見て「は?これが斑目??別人すぎるだろ」「咲というより笹原の彼女では…」、斑目は片思いなのがいい、咲は高坂と一緒が自然…などと感想を持った人は読まない方がいい気がします。

単純に「妊婦が出てくる夫婦漫画に興味がある」という人にはおススメしません。
妊婦がセックスに積極的、妊娠中の女性とセックスをする…といった内容に「…は?」と思う方も止めた方がいいでしょう。

特に妊娠・出産経験がある女性、妊活してた夫婦は読まない方がいいように思いました。
作者の過去作である『ぢごぷり』以上に面白く感じられないと思います(むしろ不快かも知れない)。

1年間の子作りを経験し、妊娠安定期の妻(妊婦)を主軸に物語が進みます。
妻(妊婦)の言動が浅く、男性の想像(悪く言えば妄想)で描かれる為、妊娠・出産経験がある女性だと「え??こんなこというの?」と小さいことに引っかかり、作品を楽しむ以前に白けてしまうと思います。

逆を言えば、私がひっかかった内容は、妊娠・結婚してない独身の男女、特に男性なら気にならないことです。
妻が夫をセックスに誘う様子を描いた、生々しいラブコメとして楽しめるかと思います。

購入のきっかけ

私はこの漫画が連載されている白泉社『楽園』という雑誌が好きで創刊~7号くらいまでは定期購読してました(産後は読んでません)。単行本を買ったのは、雑誌で読んだ時はおもしろかったからです。
雑誌の中での位置づけを考えると、幕の内弁当のような雑誌『楽園』の作品群の中では箸休め的に読めました。

正直、妊娠中の夫婦のリアリティなんて全く期待せずに買いました。
ショートショートのコメディだし、雑誌の時は笑えていたし、単行本でもサクサク読んで笑って終わると思っていましたし、そうしたかった。

でも単行本として、この作品をまとめて読むとおもしろいと感じられませんでした。

エピソードは基本「妊娠中の妻が夫をセックスに誘うが、断られたり失敗したりして遂げられない」というもの。
※この時点で「気持ち悪い…」「ありえない…」と思う女性も少なくないと思いますが、私は気になりませんでした。

単行本として1冊にまとまると、夫は何回も何回も、妻の誘いを拒み続けることになります。
パターンが同じでマンネリ感がありますし、2人が「仲の良い夫婦」とは思えなくなりました。

また、まとめて読んだことで妊娠中の夫婦の描き方が雑に感じました。
※私が「既婚女性で現在妊娠中」というのが大きいと思います。妊娠経験がない人は気にならないと思う。

夫は、妊婦が傷つくであろう言葉(暴言)を吐きますが、夫婦喧嘩にはなりません。
妻も夫が傷つく言葉を吐きます。その台詞は、夫がへたれだと笑う為なのは理解できます。でも、私には笑えませんでした。

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読んで気になったこと

大きく3つあります。

1つは作者があとがきで『げんしけん』のパラレルorパロディであることを書いていたこと。

雑誌で読んだ時は顔も性格も違うので別のキャラとして読んでいましたが、あとがきを読んでからは斑目と咲の姿を重ねてしまい、違和感が生じました。
明言は避けていますし、読み手の捉え方だと言われればそれまでですが、個人的にタイトル(Spotted Flower=斑の花)や帯で匂わせつつも、あくまで「ネット上の噂」というスタンスで作者には触れないでほしかった。
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1つは「妊娠中の女性(妊婦)」の描写が雑であること。
後述しますが、例えば「堕ろそうか?」など、妊婦と思えない台詞や行動が散見されるのが気になりました。

一つ一つは些細で「個人差だ」と流せるレベルです。しかしまとめて読むと、ひっかかる描写が多すぎる。
外見は妊婦なのに妊婦らしくない言動に強い違和感を覚えます。

この作品が「夫からみた妊娠中の妻の様子」であれば。もしくは、妻の視点でも妊婦の機微を細かく拾った(ディティールに拘った)作品であれば、評価は全く違っていたと思います。

1つは夫婦生活(セックスやセックスレス)について。
解説でも触れましたが、「1年間子作りに励み、現在妊娠安定期に入った夫婦」とは思えない、幼く身勝手な台詞が多いです。
取り扱うテーマ自体は悪くないのですが、言動が独身や大学生と変わりません。妊娠中ならではの切り口は皆無で、夫がセックスを断る理由にしかなっていません。

妻の見た目以外は学生や新婚夫婦と変わらないなら、「妊娠中の夫婦」にしない方が話に無理が生じなかったように思います。

先にも述べた通り、批判的になるのは自分が妊娠中である、女性であることの影響が大きいと思います。
妊娠していない方、特に男性が私の感想を読むと「色々気にし過ぎでは?」「重箱の隅を突きすぎ」と思うでしょうが、私個人が作品を読んでそう感じたのは事実です。

以下、ネタバレ感想です。
セックスについても言及していますのでご注意ください。

【ネタバレ感想】

良かったと思う描写

批判の前に「この話は良かった」と思うものについて書いておきます。
「お腹の子の性別が男かも…」という流れで始まる第5話。
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オタクとしての自分を嫌というほど知っているから、健全に育てる自信がない、と笑う夫。
夫の表情も含め、この描写はよかった。

「同性の子ども」への感じ方がネガティブになるのは、女も一緒。別人だとわかりつつも、つい自分と重ねてしまう気持ちはわかる。
(全ての家庭がそうとは言いませんが、従来の常識に当てはめると)男性は一家を支える大黒柱にならないといけないプレッシャーもある筈で。
もし息子ならば、それに加えて「男として手本にならねば」というプレッシャーものしかかる。想像するとちょっとしんどい…。

「自分の子どもができた」という実感が沸きにくい時期に、子どもっぽい、ネガティブな発言をするのは自然だと思うのです。
妻が切り捨てたように、下らないと言えば下らないけれど、男性の実感を素直に描いていて、共感できます。

2人は発展途上の夫婦。
毎回でなくても、こういうちょっとした「男の本音」を積み重ねて、夫が男から父親として変化していく様子を見せてくれたら、雑誌で読んだ時はドタバタしたコメディだけど、まとめて読むと「あれ?意外と深い…」と思える作品になった気がします。
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一方で、父になる自身がないと語る夫に「嫌なら堕ろそうか?」と言う妻には驚きました。夫を責めたい気持ちも分かりますが、私ならその言葉を選ばないです。

細かく突き詰めますと、安定期に入っても22週までは後期流産の危険性もあり、妊婦は日々注意を払って生活しています。また、安定期に入っていると言ってもトラブルが皆無な訳ではありません。赤ちゃんに臍の緒が巻き付いてお腹の中で死んでしまう可能性もあります。
更に彼女たち夫婦は1年間、子作りをしていた筈で。さらっと口から出る言葉かな…?

オチは気になりません。お約束として言わねばならないのでしょう…。
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作者が『げんしけん』を匂わせるのは有りか?

本作は『げんしけん』とは違う世界線におけるパラレルワールド…という位置づけのようです。
細かい内容については他のブログが詳しく言及しているので割愛。

「Spotted Flower」これは例えばの話だけど、そんなメルヘン(ヤマカム)
げんしけんのifストーリー? Spotted Flower 1巻(その他いろいろ)

夫は斑目、妻は咲。妻の友達は大野さん。作中では現視会メンバーや元彼(高坂さん)の存在を匂わせる台詞もあります。
上述しましたが、作者があとがきで触れてなかったらスルー出来たし、スルーしてました。
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私には咲が斑目に惚れる、咲が斑目を追っかけているというのが想像できなくて。
人によって思い描くキャラクター像は異なると思いますが、私は『げんしけん』の斑目は、ガチオタなのに非オタ(咲)に片思いしてる姿が良かったと思っています。
咲は、自分と趣味が違う高坂を好きになって一生懸命追いかけている感じが好きでしたし、「斑目が好きな咲=高坂とつきあっている咲」だと思って読んでました。

咲の彼氏・高坂は『げんしけん』作中であまり描かれない(読者の想像の余地が大きい)キャラクター。でも、彼氏としての役割は果たしていた(彼女を守ろうという場面はきちんと描かれていた)ので、咲が惚れていることにも納得できた。素直でなく強気な咲も、高坂には甘えられるんだろうなと思ってました。

パラレルでも、例えば「高坂がいない世界」なら(2人が別人のようであるのも含め)納得できたのですが、高坂の存在は匂わせている。
『Spotted Flower』の作品内で斑目(現在の夫)を選んだ理由が見えてくれば良かったんだけど、そういった描写はありません。
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別のキャラであれば「そういう夫婦」で終わったのに、作者がパラレルであることを匂わせた為、強い違和感を感じてしまいました。
自分の中の『げんしけん』の評価まで下がる気がするので、読者の解釈に委ねてほしかった(作者に触れて欲しくなかった)です。

「妊婦」設定の必要性

通して読むと、妻が妊娠中という設定は必要ないと感じます。

男性が「妊娠中の夫婦」を描こうとしていることは評価します。妊娠中の夫婦の方が、売る時にインパクトがあるし、他の作品と差別化できるとも思います。
でも、その設定が活かせておらず、漫画(作品)としてのおもしろさには繋がっていない。むしろ邪魔になっているような気がします。

妊娠中の自分が見ると、キャラクターの見た目は妊婦だけど、言動や行動は妊娠していない人に見えます。むしろ「女性の皮を被ってるけれど、中身は男性」に見えるので違和感が強いです。

例えば1話目のケーキの話は知識として間違っていて。妊婦がケーキを食べても問題ないです。クリスマスだし、多くの人は普通に食べていると思います。
※妊娠糖尿病の人、太り過ぎて体重管理が必要な人、明日が妊婦健診で今月は体重が増えすぎ…といった場合は別です。

脂肪や糖分の摂取を気にするのは産後で、食べたら乳腺炎(おっぱいの詰まり)になると言われることが多いです。
※とはいえ近年では「乳腺炎の原因は脂肪分」という説自体が否定されています。詳しくはこちら

また、妻が「中だししてもわからない」と発言しますが、妊娠中は感染症予防の為、コンドーム着用を推奨されています。
更に言えば「妊娠中に中だししたら流産する」という都市伝説(噂)があり、信じている方も少なくないようです(実際には各種刺激により子宮が収縮するから不安になるだけ。俗説であり流産には繋がりません)。

妻が何も知らない可能性もありますが、セックスに対して積極的な女性が、産婦人科の説明や妊娠ムック本、Google検索で得られる程度の知識すら知らないのは不思議です。女性であっても、妊娠中のセックスは不安なものですから。
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友人宅に着いて早々、断りもなくおっぱい出して赤ちゃんに授乳する(おっぱいをあげる)友達が描かれます。

児童センターなど、女性しかいない公共の場で授乳している人もいますが、今はデザインが良くて安価な授乳服があるからモロにおっぱいを出す人は見かけません。
外出の際、赤ちゃんがぐずったら車中や駅で授乳することも多々あります。授乳のたびに服を脱ぎ着する形だと、目隠し用の授乳ケープを持ち歩いたり授乳室を探す手間が生じます。赤ちゃんと移動するときは授乳服の方が楽だし、便利です。

2人を産み育てている女性が授乳服も着ないで外出するのは不思議な感じです。
※授乳服は↓こんな感じのもの。スリットが入っており、服を着たまま(おっぱいを出さずに)授乳できます。
モーハウス
jyunyuu

『ぢごぷり』でも「裸を描く必要あるのかな?」と思う場面がありましたし、単純に作者がおっぱいを描きたかったのでしょう。
でも、女の立場としては読んでいてびみょーな気分になります。

創作漫画だから最終的に面白ければいいと思うのですが、(妊娠経験がある私が読むと)キャラや物語性ではなく、作者の気持ち(読者サービス?)優先に見えてしまうのが気になります。
※おっぱいの描写が知りたい方は下の感想ブログをどうぞ。
Spotted Flower 1巻(でこぽん日記 其の弐)
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ついでに妊娠中の下着の話もしますと、1話でも描かれましたが、笑っちゃうくらいデカパンです。

一昔前はデザインも色も少なかったですが、現在は色々な会社がかわいらしいデザインのものを作っています。
でも↓の写真のように、若い人が着ても色気がないと思うし、マタニティ下着を着ている妻を見て夫がその気にならないのも仕方と思います。
たまひよSHOP
innner

少し話が逸れますが、女性は、妊娠・出産を通じて体型も気持ちも自然と「おばさん化」してしまいます。
個人差はありますが、妊娠~産後の体型変化について悩んだり努力している女性は多いと思います。

妊娠中はおっぱいが大きくなり、乳輪も大きくなり、黒ずみ。お腹は大きくなり、場合により妊娠線ができ…。産後はおっぱいがしぼんで垂れ、乳首は伸び、腹の皮はたるむ…と立て続けに体型変化が生じます。

補正下着や体操で復元を試みるも、育児が忙しく中々元に戻りません。
女である自分がどんどんそぎ落とされていくけれど、悲しむ間もなく子を育てねばなりません。

一般に妊娠中や産後にセックスをしたくなくなる女性が多いとされますが、ホルモンの影響や疲れだけでなく「醜くなった体型を夫に見せたくない」という女心から生じている場合も少なくありません。
せめて、自分でコントロールできる「下着」や「気持ち」の部分だけでも女でいようと努力します。夫が好きで結婚しているし、(夫にとって魅力のない)おばさんになりたくはありません。
(参考)●「おっぱいに関わる変なこと」(女印良品)

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…といった「妊娠・出産を経験した女性ならではの悩みがある」ことを前提にして。

妻が授乳中の友人に、自分たち夫婦のセックスレスについて相談します。
これに対する、女友達の反応がズレていると感じます。

「かわいいですねぇ…!」

うーん。そういう反応なのか…。
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セックスレスの相談は心理的なハードルが高いです。
しかも妊娠中の女性が他人に「自分が誘っているのに断られる」と口にするのは、勇気がいります。
※女性がセックスについて語る機会が少ない上に、一般に妊娠中は体型変化とホルモンバランスで「性欲が落ちる」と言われる為(性欲が高まる場合もあるとは、一般には知られてないと思います)。

妻が一大決心をした上で友人に相談するのは良いとして、2人も妊娠・出産の経験がある女性(大野さん)が共感もせずに「男なら絶対にその気になる!」ことを前提にアドバイスするのには違和感を覚えます。
「お腹が気になる男性もいますから」「あなたの体調を心配しているんですよ」「うちも妊娠中、そういう時期はあったから焦らずに」といった返答の方が自然だと思う。

独身や子どもがいないカップルの悩みとして読めば無理を感じないのに、妊婦と経産婦の会話とすると、ご都合主義に感じます。
例えば新婚なのにセックスレス気味だと相談していたのなら、気にならない話。「妊娠中の夫婦」という設定が邪魔になっているように感じます。
※自分が並べた「妊婦ならこうなるのでは?」という話だと、漫画としてはおもしろくないことは分かっています。

後述しますが、ここで友人の提案(夫の目の前でオナニーする)には抵抗しているのに、夫に自分の目の前でエロゲしろ!と迫る妻は理解不能です。
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何度もセックスに誘う妻

この夫婦は愛し合っていて当然」と思って読めるかどうかで、評価は変わると思います。
私は妻の気持ちが理解できませんでした。

妊婦が「妊娠した自分に触れて欲しい」という気持ちは構いません。
妊娠中の体型変化、それによる女としての自信喪失。夫に女として見てもらいたい、触れてもらうことで自信を回復したい。その想いは自然だと思う。
※単純に強気の肉食系女子だからかも知れませんが、無理は感じません。
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作中で妻から積極的に夫を誘うことも、問題ありません。妊娠中に性欲が普通よりも高まる女性もいます。
妊娠中の性欲は個人差が大きくて、私は妊娠したら性欲ゼロになりましたが、人それぞれです。

でも、欲情できない夫にひたすら「挿入を迫る」気持ちは理解できません。

上で述べた下着も理由になり得ますが、夫がお腹が大きい妻に欲情できないのは普通です。ひたすら「男だったら据え膳食うのが当たり前!」と迫るのは横暴すぎる気がします。
設定が「妊活中の夫婦」だったら、挿入しないと子どもは出来ないから、妻が挿入にこだわる理由になるのですが…。

数回に1回でも夫が妻の求めに応じたり、妻が肩でも揉もうか?と言って夫を触っていたらその気になって…(でも果たせず)みたいな展開があれば引っかからなかったかもしれません。
妻が何度も、無理矢理に誘う様子を見ていると「夫の気持ちより自分の欲求の方が大事なのかなあ…?」と思えてきます。夫への愛情や思いやりはないのかな?と。
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妻の発言が横暴なのも気になります。
「親しき仲にも礼儀あり」と言いますが、正直、離婚に発展してもおかしくない発言が散見されます。

「子どもが出来なかったのはうすいからかしら」とか、それ、夫に言うの…?
「エロゲしているところを見せて」というのも…。相手に失礼な上にその思考は気持ち悪いと思うんだけど…。
自分は真っ赤になってオナニーを見せることを否定したのに、夫にはそれと近い辱めを与えて問題ないの?

へたれだ!と笑うためのネタなんだろうけど、笑えるのかな…これ…。
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妻が「強気の肉食系女性」というキャラクター設定なのはわかるけれど、夫への愛も尊敬も感じない、自分勝手な言葉の数々には、全く共感できません。

夫に対してこんな発言をするのであれば、妻の言葉がきっかけで夫がEDになっても、セックスレスになっても、不思議ではないです。

「1年子作りしていた」という言葉が色々な悪影響を与えていて。
私が思う「1年間の子作り」って、毎朝基礎体温をつけて排卵周期を把握し、排卵日近くに検査薬で確認し、陽性反応がでたら夫にお願いし、その気がなくともセックスする。2週間後、月経(生理)が来た時の絶望感。また今月もか…。暗い気持ちを抱えながら、またタイミングを見て夫をセックスに誘う。
半年くらいしても妊娠しない時は、自分に問題があるのか、夫に問題があるのか、病院で検査を受けた方がいいか?…などと悩み、葛藤します。
※これ、子どもを作りたい!と思ってない人には全くわからない話です。私もそうでした。

それを経験した女性が、夫とのセックスを軽く見ることに違和感があります。
(作者としては1年間、なんとなくセックスしていたら子どもができた=子作りと表現しているかも知れませんが…)

逆に、夫がセックスを断る理由が過去1年間の子作りだったりしたら、納得できます。
その気がなくても残業で疲れていても、子どもを作るためにセックスをしなければならない1年間を過ごし、目的を果たした今、無理にやりたくないと断るのは自然。

へたれだから断っているかと思っていたら意外と深い一面が垣間見えたら、「すごい!」ってなるんだけど…多分、ないだろうな…。
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セックスを拒む夫

基本、へたれた夫を笑う漫画です。
でも、「夫がかっこいい」と見直す場面が少ないのはバランスが悪いと思います。

「雪まつりへの旅行計画を止める話」は夫をかっこよく描くつもりだったかも知れないけれど、「君ひとりの体じゃない」という言葉には感覚のずれを感じます。

いかにも男の人(夫)が言いそうな言葉ですが、実際に妊娠中に言われると、夫婦喧嘩になるくらいの言葉です。
女性がお腹の赤ちゃんの為に我慢していることは、男性が想像する以上に多いのです。
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妻が雪まつりに行きたいと言ったのも、原因は「夫が誘いにのらないこと」です。
下着や体型などの要因で夫が妻の誘いを断る気持ちもわかりますが、断るばかりで歩み寄らないのはどうかと思います。
誘って断られる妻の気持ちは考えないのかな?夫婦とはいえ、自分から誘うのは勇気がいる行動だと思うんだけど…。

欲情しない理由として「お腹がそうでなかったら」と本人に言うのも、どうかと…。
夫の本心でしょうけれど、この言葉はキツいです。言われた女性(妊婦)は、言い返すこともできずに部屋にこもって泣くレベル。
妊婦はお腹の赤ちゃんの為に、自分の体型の変化、体調の不良、日々のいろいろな我慢を受け入れています。
そんな我慢の連続の中で、(お腹が大きくなる原因を作った)夫からの何気ない一言は心にグサリと刺さります。

本心はどうあれ、妻の気持ちを思いやって「君の身体が心配」と言ってくれれば、その言葉が嬉しくてセックスしなくても満たされるのに。
言い方ひとつですが、相手への思いやりが感じられるかどうかは大きいです。
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そして夫は、妻の誘いは断固拒否しているのに、自分が怪我したら(オナニーが出来ないから)オーラルセックスを求める。
単行本で読むと、この流れに大きな違和感が…。

一連の描写を繋げると夫は「優しくもなく思いやりもない、自分優先で勝手な男」となります。
妻が、この夫の何に惹かれて結婚したのかが見えてきません。夫のへたれを笑う構造、お約束を優先した結果、そうなるのはどうかと思う。

作者としたら「手を怪我したら次の展開はこうでしょ!」…って発想なのでしょうけど、正直、この話が一番最低でした…。
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妊娠中の夫婦を題材にするのであれば、一緒に時間を重ねてきた夫婦なりの思いやりや余裕が描かれると良かったのですが。
言動も対応も、セックスに対する考え方も大学生とそう変わらないように感じました。

やはり妻が妊婦・子作り1年の夫婦…という設定は邪魔な気がします。
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女性読者は存在しない?

表紙の装丁は凝っていました。カバーが透かし紙で、背景部分はカバー裏のカラーが透けて見えます。
凝っていると感心できるんだけど、カバーをはがすと見えるのは下着姿。
作者としてはシャレだろうし、サービスのつもりなのかも知れませんが、びみょーな気分です。

細かい話だけど、色気のある勝負下着だったら、夫を誘う妻の意地が感じられたかも知れない。
でも、描かれているのはシンプルなベージュの下着姿。ショーツは妊婦用じゃないのにベージュ…。
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「黒や赤、白だと色が透ける」という事情なのでしょうが、結果としてキャラクターの意志に一貫性が見られず、本編の「妻からの誘い」が表面的に見えて余計にがっかりです。やり方次第な気がするんだけどなあ…。

夫が主人公で、夫の目線で「妻」の様子を見た物語なら、妻に萌えようが現実と違おうが、表紙も含めて「男性の視点」だと思えますから、そこまで気になりません。
妊婦漫画ではないけど、例えば『ひとりエッチ』(克・亜樹)を読んでも、男の夢だ、性(サガ)だと思って、他人事として笑って終われます。

しかし、この漫画は女性が主体で語っているし、雑誌も女性向けな気がしますが、妊婦萌え?と思えるサービスカットが多い。
女性が読むことに配慮されていない(妊娠中の読者の存在は無視されている気さえする…)のは悲しい。

まとめ

冒頭に書きましたが、男の子かも?と妻に言われた夫が口にする言葉は、素直で良かったと思うのです。
妊娠中の妻の腹が膨らんでいくのを見ながら、喜びと、自分が父親になる現実から逃げたいというネガティブな気持ちがごっちゃ混ぜになった複雑な気持ち。
父親になるプレッシャー。父親になる実感が沸かないのに、どんどん母親っぽくなる妻への寂しさ、侘しさ。

従来の父親像を壊す…といったら話が大きすぎますが、へたれた主人公が少しづつ成長する姿を描くことで、子どもができた男性の背中を押すような作品にもなったと思います。
大袈裟だけど、あの5話にその片鱗が見えるだけに、表面的な描写だけのショートコメディで終わらせないでほしかった。
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私は、木尾士目さんが描く男性キャラが好きでした。
大学時代に読んだ木尾士目作品(『四年生』『五年生』)は恋愛と肉欲・精神的な何かとの関連性、人間の内側のドロドロが描かれていて面白かった。
『四年生』シリーズの男性主人公・明夫は、身勝手で幼いけれど熱い本音を語っていたと思うし、明夫のダメなところも含めて好きだった。
(万人受けはしない作品だと思いますが。)

明夫も『げんしけん』の斑目も笹原君も、頼りなかったり幼かったり、バカだったりする。
でも、自分の友達にも似たおもしろい奴ら。こういう子、現実にいるよねと、親近感が沸くキャラクター。

男性視点であれば純粋に楽しめる作品になると思うので、男性主体で(夫を主人公として)描いて欲しかったなあ。
男性が主人公であったら、妊婦(女性)の描写がズレていても「男性の視点だとこう見えるのか(わからなくて当然だ)」…と流せます。
コメディの隙間に男性が父親になる戸惑いが描かれていれば、深いとすら思えたでしょう。

感想を書いてみると、私の木尾士目さんへの期待が大き過ぎた感も強いですが、雑誌で1話読むだけなら充分に面白い作品です。
単発で、繋がりを考えないで読む。そういう楽しみ方で終わらせておけばよかったです。

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