「読んで読んで!みんな読んで!」…て思うくらい、丁寧に綴られた本でした。
最初は単純に「生理用品の歴史か~!面白そう!」…だったんですけど、読んでいくと「女性が権利を取り戻していく歴史」のようにも思いました。
漫画ではなく、論文調ですが柔らかく読みやすい文章です。
295ページ・2592円で、電子書籍はありません。
amazon ★★★★(4.0) ※レビュー1件
【内容紹介】
いまや日本の生理用品の性能は世界最高水準にあるが、半世紀前に使い捨てナプキンが登場する以前は、欧米と比べ、かなり遅れていた。
なぜ日本では長い間、生理用品が進化しなかったのか。そしてなぜ、短期間で進化を遂げることができたのか。
また、日本ではタンポンの普及率が低いが、これにも理由がある。
本書では、ナプキン以前の経血処置法と、その進化を阻んだタブー視の背景をたどり、戦後の生理用品発展の軌跡を追う。
女性の社会進出を陰で支えた生理用品の日本独自の発展史を描く。
【感想】
この本を読んで、生理用品が選べるって幸せなことなんだな、と思い知りました。
テレビでも生理用ナプキンのCMが流れる。
こうやってブログという、大衆が目にするメディアに「生理」とか「月経」という言葉を書ける。
ネット通販で紙ナプキンも布ナプキンもタンポンも月経カップも買える。
それが当たり前の世の中。
でも、そんなことが出来なかった時代があった。
月経なんて口にするのもはばかられる。経血は陽の下にさらせない。そんな時代があった。
実はほんの50年前まで、そうだった。
「生理用品を選べる」という、私たちにとって当たり前のことが、当たり前ではなかった。
「生理用品を選べるようになった」ことで、女性の意識は大きく変化した。
そんな事実を気付かせてくれる本です。
月経がタブーだった時代と、ナプキン以後の変化
私は古代の日本を舞台にした小説『銀の海 金の大地』(氷室冴子)2巻を読んで、「生理中の女性は忌屋で過ごしていた」という説を知りました。
忌屋は、家とは別の場所に作られた場所で、生理中や産褥期の女性が過ごします。
”血は穢れ”を避けるといった意味合いだけでなく、女性が身体を休ませるための社会システムであったようです。
今回、『生理用品の社会史』を読んで、忌屋は戦後の日本にも、存在していたと知りました…。
マ ジ で す か 。と突っ込まずにはおれませんでした。古代の話かと思ってたのに、昭和の時代まで残ってたなんて…。
少女漫画でいうと、渡辺多恵子さんの『風光る』。女の子が男装して新撰組に入る…という漫画ですが、この中で「お馬」という手作りの生理用品が登場します。
漫画のあとがきで「女性の生理に関する史料が見つからない!」という作者の怒りの声?苦労話も書かれていました。
『生理用品の社会史』を読んでも、神代〜江戸時代における、月経や生理に関する記述や史料が少ないことが分かります。
(穢れは灌ぐべきものなので、記述したり残そうとする可能性は低いので仕方ないけど…。世界的にもそうなのかしら…。)
明治時代の女性は、ゴムのバンドを巻いて、脱脂綿を詰めたり、ボロ布を敷いたりしていた。
穢れだからと、人の目につかない場所、日陰で洗っていた。太陽で殺菌できないから、衛生的にも最悪な状態だったようです。
1947年生まれの母が子どもの頃は、脱脂綿を半紙に包んで、ナプキン状のものを用意していたそうです。作り方はお姉さんに習ったらしい。ゴワゴワしているしズレるし、面倒くさかったと話していました。
1960年代に「アンネナプキン」が登場し、一大ムーブメントを起こした。
生理用品といえば「ナプキン」という時代がやってきた。
生理のことを「アンネの日」と呼び、穢れではない、恥ずかしくないことだと、前向きにとらえることが出来るようになった。
そうしていく中でだんだんと、女性の意識が変化し、普通に「生理」と言えるようになった。
ふんだんな資料と共に、女性の意識が変化していく歴史が綴られています。
生理用品(ナプキン)の歴史、たったの50年程度です。
日本での登場はアメリカなど欧米諸国から40年遅れたらしいので、人類史で考えても90年程度です。
祖母の時代にはタブーだった。母の時代に意識が少しづつ変化して、私たちの時代には当たり前になった。
娘の時代には選択肢も増え、好きに選べる時代。
世代によって「性」に対する意識が違うと感じるのは「月経」という当たり前のことを「タブー」としていたかどうかの差もあるような気がしました。
脅し系ナチュラルへの冷静なツッコミもあるよ
この本を知ったキッカケは、この記事でした。
●昔の女性はできていた!? 気になる「経血コントロール」のホントのところ
(※2017/4月現在は公開されていません)
本の中で書者の田中ひかるさんは、布ナプキンの効用を主張する論文に対し、冷静に「根拠がない」と切って捨てていました。フラットな姿勢に好感を持ちました。
本の中で紹介していたお店のページも、説明が丁寧で、素敵でした。
経血コントロールとか紙ナプキンには経皮毒があるから布ナプキンを使え!という「脅し系ナチュラル」が話題ですが、商品を売る為の根拠(データ)の無い「デマ」なので、みなさん信じないでくださいね(^_^;
商売の構造については「母乳が出るハーブティは、江戸しぐさと同じ」て記事を参照ください。
高価な布ナプキンもありますが、”母乳に効くハーブティ”と同じで、アフィリエイト報酬が高く設定されています。
私も布ナプキンを愛用しています。見た目がかわいいし、ゴミが出ないし、肌の状態もよくなったので。
でも、紙ナプキンも便利だし、外出する時はタンポンも使ってます。
月経カップも使ってみたいから生理再開したら買う予定です。
月経カップなどについては、この辺を参照ください。
●溜める生理用品「月経カップ」(Natural*Eco)
●肌の弱い方の参考になるかも?月経カップや布ナプキンなど生理用品について
デマで脅して商品を売りつけるのは違うと思うし、今を作った方たちに失礼だと思うわ…。
まとめ
生理用品を選ぶ。
それによって、女性の意識も変わる。
自分の体が、自分のものだということ。自分の心が自分のものだということに気付く。
そういう歴史の積み重ねで、今の「女性」てものが存在するのだと思いました。
普通だったら手にしないと思う本ですが、とても良いので是非読んでください。
2017/11/15追記:経血コントロールに関する記事
Twitterで「月経血コントロール」が話題になっていました。
●差別ネットワーク千葉「経血コントロールできない女は甘え」(Togetterまとめ)
怪電波を受信しました。 pic.twitter.com/jJUuJKLhkL
— 濁山ディグ太郎 (@DiRRKDiGGLER) 2017年11月13日
産婦人科医師・宋美玄さんによる検証記事
●昔の人はできていた……のか?「月経血コントロール」を検証する
要約すると、出来たという証拠(文献等)もないし、身体構造はそうなっていないし、体にも悪いのでやる必要がない、です。
漢方薬剤師・堀江昭佳さんのブログ
●昔のひとは経血コントロールできてないよ。〜月経を歴史的に考える。その2〜
(失礼ながら)「胡散臭そう…」と思いながら読んだら納得感のある記事でした。
田中ひかるさんの『生理用品の社会史』を引用して、女性の月経の回数について言及されています。
現代女性 455回
明治女性 50回
こどもがひとりだったり、出産をされないひとも増えていることを考えれば、
明治時代に比べ現代女性は10倍くらい月経回数が多い。
月経を歴史的に考える上で、これはものすごく大きな違いなんだよね。
そして、女性の健康を考える上でも今と昔は全然視点が違ってくる。
子宮内膜症や子宮筋腫といった婦人科の病気が増えているのも、この月経回数が深く関わっているから。
月経の回数が少ない理由はこの辺です。栄養状態の違いもある気がします。
・初潮が始まるのが2年遅い
・閉経が2年早い
・多産であり、授乳期間中は月経が止まる
また、この方のブログで日本神話のヤマトタケルとミヤズヒメのエピソードにも触れています。
経血が衣を汚してしまう、というエピソード。
●むかし月経はタブーだった。〜月経を歴史的に考える。その1〜
この辺も『生理用品の社会史』に書いてありました。
歴史が進むにつれて男性中心の武家社会になっていき、「血は穢れ」といった考えになっていったようです。
「経血コントロール」という言葉の誕生
私個人での調査になりますので間違いもあるかも知れませんが。「月経血コントロール」といった記述が初めて見られた書籍は、2004年刊行のこの2冊です。
※文庫版は2008年刊行ですが、元は2004年に出版されています。
「江戸時代の女性は膣の部分に力を入れて経血を貯める=経血コントロールが出来ていた」といった主張をしているようですが、出典記載はありません。
これ以前の文献でそういった記述は見られないのを見ると、疫学者の三砂ちづるさん、ゆる体操の高岡英夫さんによるデマかと思います。
「江戸しぐさ」と同じで、「昔は素晴らしかった!」理論で創作されたものかと思います。
ついでに「経皮毒」も
ケミカルな紙ナプキンには「経皮毒ガー!」という方もいらっしゃいますが、経皮毒の概念も比較的新しく、2005年頃の発案です。
薬学博士の竹内久米司氏と稲津教久が考案したものに、真弓定夫医師が乗っかった形で広がったデマです。科学的なエビデンス、根拠がない。
最近は、「脅し系ナチュラル」と呼ばれる、医師によるデマも多くて困りますね…。
※少数ですが、経血コントロールが出来る方はいます。経血コントロールが出来る方を責めたりはしないでくださいね~。出来る方は意外と簡単に出来るみたいです。経血の量や月経期間も個人差がありますから。/span>
著者・田中ひかるさんの最近の活動
この感想記事、Twitterで紹介しましたら多くの方に読んで頂きました。田中ひかるさんの本に興味をもってくださる方も多くて、嬉しかったです。是非是非。
経血コントロールを語る前に、田中ひかるさん『生理用品の社会史』を読んで欲しいなあ。名著です。
生理用ナプキンが一般的になる現在までの、約50年の歴史を描いています。男性の方の活躍も大きくて、読んでいて胸が熱くなります。https://t.co/TaKzOu8mqm— 末尾 (@matu_bi_) 2017年11月14日
記事公開をきっかけにTwitterで検索してたら、田中ひかるさんの新たな活動を見つけました。
田中ひかるさんのWebSiteを見つけました。
最近のインタビュー。
女性の生理は、女性のものではなかった。それによって私たちが失ったもの/『生理用品の社会史』田中ひかる氏インタビュー前篇 https://t.co/K4hS3ApGlq @wezzy_comさんから
— wezzy編集部 (@wezzy_com) 2017年11月13日
「生理用品連絡協議会」開設。
アンネナプキンがその後の生理用品に大きな影響をもたらしたこの記念日に、
田中ひかるさんと私は「生理用品連絡協議会」を結成し、ウェブサイトを開設しました。https://t.co/5usKQNVKBg— naplog ねこと古い本が好きです (@nunonapuchu) 2017年11月11日
田中ひかるさんと一緒に「生理用品連絡協議会」を結成した山浦麻子さんによる、生理用品の記録をまとめたサイト!
まだチラ見ですが、これは素晴らしいし素敵…!後でしっかり読みますね~。楽しみ。
うわー、素敵なサイトに出逢えた。後ほど、熟読します。 / “月経帯からアンネナプキンまで/ちょっと昔の生理用品の記録 なぷろぐ” https://t.co/EntNfyrIWh
— 末尾 (@matu_bi_) 2017年11月15日
頂いた引用RTを記録として。
明治時代は葉っぱを使っていた方もいたみたいです。伝聞の方が知らないことが分かる部分もあるなあ…!
月経の時に使うと良い葉っぱとかあったのかも知れません。
私の明治生まれの祖母は「葉っぱ」を使っていたと言っていました。あと、妊娠すれば生理がこないから、たくさん妊娠したほうが楽だとも聞いたよ… https://t.co/TvcpbWFb6K
— ささき★鳥とワインと占星術 (@sasakineesan) 2017年11月15日
「やんごとなき姫君たちのトイレ」って本もあったなぁ
中世ヨーロッパの生理事情がちょっとだけ載ってたと思う。 https://t.co/dhntZ1IqIo— あかいな (@akainax) 2017年11月14日
今度、読んでみますー。
この本も良いみたいなので読もうと思っています。