青木光恵さんの育児漫画です。
「Kindleのみで発売」と聞いたときは買うかどうしようか悩みましたが、思い切って買ってみたら良い作品でした。
全65P(うち漫画など50P、文章でのあとがき8P、他に表紙・奥付・告知など)で、300円です。
普通の育児漫画の半分くらいのページ数で300円はお買い得に感じます。
電子書籍のせいかページ数が少ないとは感じず、満足できました。
●「無料サンプルを送信」ボタンをクリックすれば、Kindleで冒頭の2話分が試読できます。
amazon ★★★★★(5.0) ※レビュー3件
【内容紹介】
青木光恵の育児マンガ短編集。単行本未収録。
子育てに付きものの悩みや戸惑いなんかぶっ飛ばせ。
子供なんか生きてりゃいいのさ! 元気いっぱいの育児エッセー。
内容詳細はこちらが分かりやすいです。
●作者・青木光恵さんの作品紹介ページ
【感想】
「おもしろかった」の一言では表せないくらい、色々な感情が沸き起こる作品でした。
おススメしたいのは
・娘がいる人
・小学生、中学生のお子さんがいる人
・子育て(不登校や発達障害という言葉)に悩んでいる人
逆におススメしないのは、
・単純な育児漫画を読んで楽しみたい人
・「娘をきせかえ生き人形」呼ばわりとか…ないわ……と思う人
かなあ。
作中で「産むなら女の子と強く思ってた」「きせかえ生き人形が欲しかったから」という台詞がありますし、娘さんは幼児モデルもしていたようです(詳細は描かれていませんが小さい頃だし、本人が希望した訳ではないでしょう)。
現実の話だからこそ、この辺の台詞や対応に不満や作者の身勝手に感じる人もいるでしょうし、嫌悪感を抱く人もいると思います。
下のコマを見て「うわ…ないわぁ…」と思った場合は止めといた方がよいかと思います。
私は青木光恵さんの普段のイメージから、例えば『ぷりぷりふたごシスターズ』(ももせたまみ)のような娘カワイイ!漫画を想像して購入しました。
読んでみたら、良い意味で期待を裏切る、心に響いてくる漫画で驚きました。
作者のプロフィール
青木光恵さんは1969年2月24日生まれ。
娘のちゅんこちゃんは現在16歳らしいので、1998年(28歳~29歳)頃出産されているようです。
『生きてりゃいいさ』は元々、2009~2010年に竹書房の雑誌「すくすくパラダイス」で連載されていました。
中学生の娘さんを目の前にしながら、出産した頃、保育所に通っている頃、小学生の頃…と昔を思い出しながら描いたそうです。
この漫画の特徴
誤解が無いよう先に書きますが、引用している画像がぼやけて見づらいのは、私が画質を落としたからです。
本物ははっきりした線で読みやすいです。
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この漫画の特徴を挙げるとしたらこの3点です。
1)スマホで読みやすい(Kindleで販売)
2)女の子がかわいい
3)母親としての悩みがストレートに表現されている
1)スマホで読みやすい(Kindleで販売)
「Kindle使ったことない…」という方はこちらを参考にしてみてください。
●kindleストアで本を購入する手順(快適風味)
個人的に電子書籍はスマホ(iPhone4S)で読みたい私。
何度か試しましたが、スマホだと台詞の文字が読めないことが多く、コマを拡大して台詞を読むはめに。
いちいち拡大するのも面倒くさいので、スマホで電子書籍を読むのは無理かなー…と半分あきらめてました。
ところが、この漫画は読みやすい。一度も拡大しないで枠外の描き文字までスムースに読めました。読みながらちょっと感動しました…。
育児漫画は単行本の版が大きい場合が多く、文庫版サイズになると文字が読みづらくなるものです。でも、全然読みづらくなかった。すごい。
このクオリティなら電子書籍で買うのに迷わないわ…。
2)女の子がかわいい
青木光恵さんといえば「かわいい女の子!」…というイメージが強いです。
この漫画を知ったときも「かわいい女の子イラストと娘さんの服の話が読めればいいか~」と思っていました。
服の話は「浴衣の話」と「制服の話」があり、描かれている女の子の絵もかわいくて!
自分が期待した部分は充分堪能できました。服の話はもっと読みたかったなあ。
小学校の入学式に「制服風」の服を買うと便利!とか。入学は6年後だけど、うちもそうしようかな…。
3)母親としての悩みや葛藤がストレートに表現されている
実は、買う前に全く期待してなかったところが一番印象に残っています。
私は青木光恵さんの作品は知っていますが、ファンではありません。
今まで触れてきたのがさらっと気楽に読める4コマ漫画や女の子のイラストばかりでした。
『生きてりゃいいさ』というタイトルには、前向きで開き直った雰囲気があります。
読む前は、能天気で明るい「育児の悩みを感じさせない」「人の目を気にせず我が道を行く」育児漫画なのかな、と思ってました。
かわいい女の子や娘さんへの愛を叫ぶぜ~!カワイイ服着せてうはうは~!…みたいな漫画。
読んでみると、自分の想像とは違う側面が見えました。
育児の悩みや親としての葛藤をぐぐっと胸に仕舞いながら、読者を楽しませようという姿勢を崩さない作者の言葉。
最初、3話目に描かれた「保育所の保母さんに怒られる話」には驚きました。
青木さんがお世話になっていた保育所は「当たり」で皆さん優しかったらしく、よそのお母さんから聞いた話。
青木さんがお世話になっていた保育所は確かに優しいと思う…。
「お迎えの時間に遅刻した」なら苦言を言われるのは当然に感じます。
母親側にも仕事の事情とか色々ありますけれど保育所がそこを慮るのはどうかと思うし、集団生活だから時間は守らないといけない(自分がやらないと子供に言っても説得力ないし…)。
理想を言えば優しく接してもらった方が保育所に行くのが楽しいし、保育士さんに迷惑を掛けまい!と時間を守る気がしますが。性善説を採用すると収拾がつかなくなりそうですし。保育士さんが「遅刻を許すとずるずる遅れる」と考えて厳しくする方が自然な気がする。
でも「時間に間に合っている時に着替えて行く」と「早く迎えに来て」と言われ、「延長を依頼するとピリピリ!」…という対応は違うのでは?
保育所が時間延長できない0歳児だったり、事前連絡なしで突然延長を依頼した場合は最初から断られるはず。
仕事してない時間は数分たりとも預かれません!…ということなのだろうか…?
青木さんの叫びには全く同意です。想像するだけでつらい…。
青木さんが保育所に娘さんを預けていた10年以上前の話なので、今はそうではないといいのですが…。
9話目(最終話)「生きてりゃいいさ」はとてもよかった。
これを読めただけでも買った甲斐がありました。
娘・ちゅんこちゃんは「窓際のトットちゃん」(マイペースで人の話を聞かない女の子…)だった…と描かれています。
6話目で、バレエ(習い事)の先生に「娘さんは自由すぎて…」と言われた、と丸めに表現されてましたが、9話では「娘が3歳を過ぎたあたりから母親(青木さん)が周りの大人に怒られるようになった」と描いています。
娘さんを見た「周りの大人」に言われたこととして
1)すごい甘やかしていると思われる
2)甘やかしてないなら怒り過ぎだと言われる
3)最終的に「愛情が足りてないんじゃないですか?」と言われる
……うわぁ…引くわ……。
なんだか的外れな根性論が入っている気もするなあ…。
育児の話ですが、会社での新入社員や部下への指導・教育で言われることと近いものを感じます。精神論ではなく方法論を語らないと解決しないのに。
色々あった末、(小6の頃の?)担任の先生の勧めに従いADHDの検査を受ける。
検査の結果、発達障害ではないことが判明するが、検査を勧めた担任からの返事は「そうですか、わかりました」という簡単なものだけ。
それ以上のコメントもなく小学校卒業。
その後、中学生になってからは不登校に。
(作中では単に「不登校になって」とありましたが、Twitterを見ていたらいじめもあったようです。ちゅんこちゃんは現在、公立高校に通っているそうです)
「最後まで付き合うのは親!いい意味ですべてのハードルを低く設定しよう!」
「無事生きてくれてよかった!--そう思えばいいやん!!」
これらの言葉は、なかなか言えないなあ…と思いました。
作者の開き直った態度を「親として無責任」と感じる人もいると思いますが、私は嫌いじゃないです。
子育てをしていると、躾とか学歴とか周りの評価とか色々なことを考えて欲張ってしまうし、親として出来る限り努力もする。
でも、自分の能力を超えてしまったとき。自分が親として学習し成長する速度より子供の成長の速度の方が早いとき。
全て自分の努力で賄えると信じ込んでしまうと、別の何かが犠牲になると思うのです。
先に自分の能力を諦めて開き直ってしまった方がいい場合もある。
特に子育てを「普通にできている」人には理解を得られないと思うけれど、そこを諦めて子供の個性を認めるというのが、青木さんが選んだ道なのでしょう。
何を選ぶか、優先順位は人それぞれだから、他者の共感を得るのは難しい気もしますが…。
自分が同じことを言われたら?という想像
9話を読みながら、色々考えました。
将来、自分が周りの大人から、同じようなことを言われたらどうだろう?
「ちゃんと怒ってるんですか?」
「愛情が足りてないんじゃないの?」
正直、腹が立つでしょう。その発言を受け入れられないでしょう。
だって自分なりにがんばっている。努力してる。愛情も掛けている。
でも、その指摘に反発しても、何も変わらない。
まずは「周りの人がそういうのであれば、自分達の躾が悪いのでは?」と疑ってみる。相手の言葉を受け止める。
夫婦2人の努力で結果が出ていないのだから、保健所や教育相談窓口など専門家に相談してアドバイスをもらう。
それを元に再度計画、実行する。
夫婦で、指摘されたことの中で解決できること(治せること)と、解決できないことを整理し分類する。
自由奔放なのは性格だから治らないかもしれない。周りの空気を読むのは難しいから解決には時間がかかるだろう。
でも「忘れ物をする」「時間を守れない」は、解決できるかも知れない。
次に、解決の方法を考える。
「仕組み」を作って日々の行動、習慣から変える。
(問題は本人の意識改革(親が注意する、叱る)では解決しません。意識次第で解決するなら既に治ってる。)
例えば「忘れ物」。最初は親が一緒に準備して「持ち物を準備する」手順や方法を教える(兄姉がいないのであれば、自己流で非効率な準備になっているかも知れない)。
次に「準備の手順書」と「持ち物チェックシート」を作らせ、親がチェック。完成したシートを見ながら鞄の用意をさせ、子供がチェックした後に親がチェックする。
親は「毎日子供を疑ってチェックシートを作り、チェックする」必要があります(親がチェックして忘れていたら話にならない)。
繰り返すうちに「チェックシートが作れない」(用意するものが把握できない)のか、「物の入れ忘れが多い」のかが分かります。
そうしたら、その問題点を解決する仕組みを作る。
例えば子供1人では漏れのないチェックシートが作れないなら、学校で作り、一度教師に見てもらう。
小さな原因をつぶしていき、すこしでも改善したら褒め、子供に任せる部分を増やし、忘れ物をする頻度は少なくなっていくはずです。
偉そうなのですが、最初にこの9話を読んだ時「こうすれば解決することもあるんじゃ…?」と思った面もあります。
「忘れ物」と「時間を守れない」のと「自由奔放」(空気を読めない?人の気持ちが推し量れない?)を一緒にするのは違うのでは?と。
親の工夫次第で解決できたのではないかな、と。
自分の部下・新人指導の経験や山本五十六の言葉「やってみせ、いって聞かせて、させてみて、 褒めてやらねば人は動かじ」を元に考えたのが上述した内容です。
でも、子育てに当てはめると自分が理想を語っているだけな気がします…。
あくまで対症療法的な、教師からの苦言が減る程度の対策に感じる。精神論だけだと解決しないけれど、この方法で本人の「やる気スイッチ」が入るとは思えない。
しかも親にかかる負担が大きくて、継続が前提なのに途中で心が折れてしまいそう。
子供の個性(原因)に合わせてトライ&エラーを繰り返す必要があるし、いいところを見つけてほめなきゃならないし。
ある意味で親の根性と深い愛情が必要になるけれど、夫婦共働きの家庭でそんな余裕があるかなあ…?
余裕がないなら娘の教育に身をささげる為に自分が仕事を辞めるのか?…というと、そうすることで別の問題が起きるし。
部下や新人の教育経験も無い人にはハードルが高すぎる気もする…(自分の子だと色々感情が入っちゃうし)。
更に、『うちの3姉妹』のスーちゃんみたいな例もあり(こんな話もある)。
親がどれだけ工夫しても、本人のスイッチが入らないと徒労に終わる気がする。
深く考えれば考えるほど、解決が難しい問題だと気付かされました。
周りの大人の勝手な物言いに「ないわぁ…」と思った自分ですが、軽い気持ちで同じことを口にしそうだな…。反省。
色々と知恵を絞り、出来る限り努力して、それでも子供が変わらなかったら。
…う、うーん…。私はどうするんだろう…。
努力しても子供が変わらないと、だんだん自分に自信がなくなって、自分がキライになってしまいそう。
普通のことが出来ない子供を、疎ましく思ってしまいそう。
親の能力にも子供の能力にも限界があって、「普通の人が普通にできている」と思えることを、自分が出来ないこともあります。
親子で罪?の擦り付け合いをしたり、悩んで親子の会話もなくなるくらいなら「これは自分たち(親や子)の努力で解決できる問題」という前提を放り投げて「生きてりゃいいさ!」と開き直るのも、一つの手段だと思うのです。
あとがきに「他のお母さんやお父さんが描いているような、そういう明るいネタが全くなく、毎回困っていたのを思い出しました」と書かれていました。
連載していた当時は上で書いた発達障害の検査とか、中学にあがって不登校になったりとかしてる時期なのではないかな…?
そんな状態で「明るいネタ」を描くのはしんどいと思う…(正直、漫画を読んでいても暗いとは感じないのですが)。
親の努力が足りない訳でも、子供の努力が足りない訳でもないのに、「(日本的な)集団生活が送れない」だけで「ダメな子」とレッテルを貼られ、責められる。
子育ての闇というか、社会の闇というか…。そういうものが描かれている。
作者と娘さんが苦しんだ体験を読む機会を与えてくれて、考えさせてくれて、本当にありがたいと感じました。
より楽しむ為に
「青木光恵さんが育児漫画を描いている」…という話は2011年時点で知っていたのですが題名が分からず。間違って買ったのが『女の子が好き 育児編』全2巻。
尾上由美(旧姓・森高)27歳が「かわいい女の子について」熱く語る4コマ漫画です。
娘さんを出産した時期(1998~1999年頃)に連載していたからか、育児ネタも入っています。
こちらはさらっと読めてひたすら笑う感じ。女の子もかわいいし、面白かったです。
2巻には本人の妊娠漫画(4P)、出産漫画(8P)も収録されていました。
つわりは本当に酷かったんだな…。大変だったろうな…。
『生きてりゃいいさ!』に詳しく描かれていた「産後2日目の心境変化」はこちらにも描かれています。
突然「かわいい!」と思って驚いたのだろうなあ…。
この漫画を、例えば雑誌で1話だけ読んでいたら、そんなに面白いと感じなかっただろうし、購入もしなかったかも知れません。
まとめて読んだことで色々気付かされ、グサッと刺さってきて、評価が上がった感じがします。
あとがきで「不登校になったので中学ほとんど行かなかった…。この辺の話はまた!今年中にそのあたりの事を描いた本が出る予定ですので、よろしくお願いします。」…と書かれていたので、発売されるのを楽しみに待っています。
※7/3追記
WEB連載が始まってます→『中学なんていらない』
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余談ですが、この漫画を読んでいて思い出したの本が2冊あります。
自分はこの2冊の印象が強いこともあり、ちゅんこちゃんの「発達障害では?」と疑われるような自由奔放な性格を「親の躾or愛情が足りない」の一言で片付けられないのです。
どちらも子供が登校拒否をした小学生、中学生の頃の経験が書かれています。
どちらも2人の子供を育てていて、親としては同じように育てたつもりなのに、下の子が登校拒否…というパターンです。
1つは、大前研一さんの育児本。
大前さんは経営コンサルタントで、奥様はアメリカ人。2人の息子がいます。
2人ともハーフということでいじめに遭い、特に次男さんは、中学受験して早稲田実業に入学したのに登校拒否に(そして退学)。
ゲームに強い興味があり、本人が「英語とプログラミングを学びたい」と決めて高校から単身アメリカに留学(親は応援)。
今はUnityというゲームエンジンを作っている会社の日本法人の代表になっています。
最初に発行されたのが1998年と古いせいか、学校や日本の教育システムへの評価は偏っている気もしますが、一般に正しいと思われがちなレールにのせない、独自の教育論がユニークで良いです。
こりゃ金がないと出来ないわ…と思う方針もありますが「子供を子供扱いしない」「子供のやりたいことをさせる」といった考え方には共感できます。
特に面白いのは2人の息子のインタビューです。
父親が書いた育児書について、既婚者で子供もいる長男と独身の次男で風情の違う大人な?コメントをしていてニヤリとします。
もう1つは植松三十里さんのエッセイ。こちらは旦那様と2人の娘をお持ちの歴史小説家です。
42歳で小説家を志し修行を始め、48歳でデビューという遅咲きの作家さんです。
この中で、次女が小学生の頃から登校拒否になり、悩んだ日々について、書かれています(書く前に本人の許可もとったそうです)。
次女の子育てに関する葛藤については、ヘビーな内容なのに言葉が美しくてするするっと読める。すごいエッセイだと思いました。