正確には「育児漫画」ではなく、子供を産んだこと・子供を育てることをきっかけに、自分の両親と自分との関係を見つめ直す漫画です。
生まれた子供を育てる上で、知らない間に影響している「自分自身が親にどう育てられたか」という経験。
「(毒親の)負の連鎖に気付き、そこからの脱却に取り組む漫画」だと思います。
色々なことを考えさせられる良い作品でした。
育児をしていて子供に怒りをぶつけてしまい落ち込む…といった連鎖が気になっている人が読むと、何らかの気付きに繋がるかもしれません。
amazon ★★★★★(4.7) ※レビュー3件
楽天 レビューなし
【内容紹介】
『ダメ母』の連鎖、私の代で絶対止めてみせる!
うまくいかない子育て。娘を愛してるのに、どうしてイライラしちゃうんだろう?
悩み続けてやっと気づいた、心の奥底にあった両親への「怒り」。
――――――もしかして私、親に怒ってる?
「子育て」を通して、自分と両親、そして自分と娘との親子の問題を描きます。
両親との問題に悩む人はもちろん、「子育て」の悩みを抱えている人にも読んで欲しい問題作。
【序盤のあらすじ】
出産したものの、自分に似ている娘がかわいいと思えない…。
喜びではなく、不安と罪悪感を抱えて過ごします。
娘が3~4か月の頃、初めて娘に対して「イライラとした感情を抱く」。
娘が成長していくに伴い、娘がかわいい、大好きとと感じるようになる。
けれど一方で、イライラする。
どうしてイライラしちゃうんだろう
イライラする私は本当に なんてダメな母だろう
「お母さんってみんなそうやろ?」
「自分を責めるなって」
旦那のアドバイスに納得できるような、出来ないような…。
娘をかわいがれず、イライラをぶつけて自己嫌悪に陥る日々が続きます。
月日は流れ、娘の幼稚園登園拒否が起こります。
それをきっかけに、登校拒否や虐待関連の本やサイトを読み漁っていたら…
突然、気付く。
私、両親に対して怒ってる…。
作中の3分の1のページ(57P)で「作者が両親に対して怒っている」と気付きます。
この後は漫画の本質にあたるので軽く。
子供の頃の自分と、母親。子供の頃の自分と、父親。
両親とどんな関係だったか、その結果、自分がどういう人間になったのか。色々なエピソードを元に語られます。
作者が子育てをしていてイライラするのは、親からの影響が大きいと気付き、自分だけで「ダメ母脱却」に努力します。
そのうち「誰かに頼ってもいいよね…」と思えるようになり、臨床心理士に相談。「ダメ母脱却への最初の一歩」を踏みます。
ここまでの文章を読んで興味を持てた方にはお勧めです。
逆に「私の考えてたダメ母像と違うなあ…(ちょっと深刻すぎる…)」と思った方にはお勧めしません。
【感想】
作者のプロフィール
作者・武嶌波さんは1981年5月生まれ。東京都八王子育ち。現在は神戸市在住、32歳。
母・武嶌さん(作者)、ダンナさん、娘・なあちゃんの3人家族。
2006年に小学館IKKIにてデビュー。代表作「素っ頓狂な花」、「電氣ぶらんこ」「LOVE DOLLS」。
武嶌さん(作者)、ダンナさん、娘・なあちゃんの3人家族。
作者のHPにあるプロフィールによると、2008年10月・26歳で長女・なあちゃんを出産されているようです。
武嶌さんの実家は両親、6つ上の兄、4つ上の兄、武嶌さんの5人家族。
読みながら、まず思ったこと。
この作品を描くの大変だったろうなあ…。
出産直後から「娘がかわいいと思えない」。
娘の行動にイライラしては、荒ぶる感情を娘をぶつけてしまうダメな自分。
自分の内面をこれでもかー!と掘り起こして描き、自分もさらけ出して描いている。
更に、親との関係によって歪んでしまった子供時代の自分のことも描いている。
動物をいじめて楽しんだこと、他人の物を盗んだこと…。
両親のダメなところ、してほしかったことも赤裸々に描く。
自分の両親に原因があるとはいえ、存命中の親の事をここまで描くのは勇気がいる。
作者が全部開いて見せてくれるから、読者も心を開いて読むことが出来るのですが、それにしても、すごい。
「自分の親に対しては不満がない」と思っている人も、読んでみたら意外な発見があるかもしれません。
作品の中で描かれていること
大きなテーマは「作者自身のダメ母克服」ですが、作者が子育てのイライラに悩む原因の根っこは作者がアダルトチルドレンであることのように感じました。
「アダルトチルドレン」という言葉が流行した当時、自分は高校生で。
本を読んでもよくわからない概念でしたが、親になった今読むとなんだかハラハラしますね…。
現在だと親が「毒親」と言った方が伝わりやすい気もするのですが、作者の「認知の歪み」との関連性を説明しづらいので、今回の感想では「作者がアダルトチルドレンだった」として進めます。
1回目読んだ時、作者が子に対してイライラしてしまう原因を「親のせい」で終わることに納得できませんでした。
一番大きい原因はそうだろうけれど、そもそも、作者自身の物事の捉え方・考え方が歪んでいるように思えて。
漫画を読むと、作者は極端な考え方をしていると感じます。
上にも引用していますが「絶対イライラしてはいけない」「イライラする私はダメな母親だ」とか。
どうも、認知が歪んでいるのです(参照:認知の歪み)。
物事の白黒をはっきりつけすぎるし(1か0かで極端に判断している)、「母とはこうあるべき」と自身のイメージでレッテル貼りしている感じ。
自分のことも娘のことも「ありのまま」「素直に」捉えていない気がしました。
イライラの原因が「子供時代の自分はお母さんに遊んでもらえなかったのに…」という満たされない思い=親のせいだったとしても、考え方や捉え方は作者自身によるものではないの?全てが「親のせい」ってのこともないんじゃない?
そんな疑問を持って調べてみると「白黒はっきりつける考え方」など認知の歪んだ思考はアダルトチルドレンの特徴らしく…。
作者の物事の捉え方・考え方の癖(認知の歪み)も、長い長い親との関係から作り出されていたものなのです。
多分、根本的な解決(親に対する不満の解消)を行わないと、考え方の癖・認知の歪みも解消されないのですね…。
今回、自分の最初の感想(誤解、無理解)も踏まえ、周囲の人間に理解してもらいにくい(相談しにくい)状態だということにも気付かされました。
そもそも「親に対して怒っている」と気付く(認める?)までが大変。その想いを言葉にして口にのせるのも大変。
清水の舞台から飛び降りるくらいの気持ちで誰かに伝えても、多分、分かってもらえない。
「親不孝もの」「いつまで子供の気分でいるんだ(大人になれ)」と責められる可能性の方が高い。これはつらい…。
私の話
うちの両親もダメなところは多々ありますが、自分が娘を育てている今、「うちの親ってすごい!」と思ってます。
自分が鬱病を患ったタイミングで親と大ゲンカしておりまして、親を「自分より一段上の存在」ではなく「1人の人間」と見れるようになりました。
娘を産んでからは、親の子育て方針に感心するばかりです。
こんな風に書くと「matsubiさんちの両親は良い親だったんだね」と思われそうですが、姉は両親を「毒親」扱いしています。姉の視点・記憶から表現される両親は、私の視点・記憶の両親と違う人のようです。
親子でも人間同士。相性もあるし、長女と末っ子では親の関わり方もストレスのかかり方も違うので、姉の気持ちも「そうなのだろう」と思います。
例えば両親が喧嘩した時、末っ子の私は姉と兄に守ってもらっていました。矢面に立って親と戦っていた姉と比べたら、私は心のダメージが少なくて済んでいると思います。この点については上の2人に感謝しています。
結婚したことで旦那の実家と付き合うようになり、よその家庭を見れたことも大きかったと思います。
どこの家庭もいくばくかの「いびつさ」「ゆがみ」を持っていて、良いところばかりではないんだな…と気付くことができました。
漫画の中で、小さい武嶌さんが「病気なのになんで怒られるの?」…と涙しながら床につく場面があります。
この場面を見た時、ドキッとしました。義母の姿が思い浮かんだからです。
基本、義母は子供思いです。でも、誰かが体調を崩した時。その人が本当に苦しい時、つらい時。
義母はその人を責めます。「心配だから」という言葉を印籠のように差し出して、体調が悪くて横になっている人に暴言を吐くのです。
相手は娘や息子(義姉や旦那)であることが多いですが、甥っ子や姪っ子(孫。まだ小学生)の場合もありました。
私は病人はいたわるものだと思っていたので、初めて目にしたときは驚きました。普段、過干渉な分余計に。(実の両親は普段は放任、体調悪い時はしっかり面倒をみてくれます)。
ある時、どうしても我慢できず、義母に「おかしい」と伝えて揉めたことがあります。
キツい言葉で責める理由を聞いても、本人は「心配だからつい…」としか答えません。
義母としては本気でこちらの言葉が理解できないようで(思考停止してしまい)、「嫁さん(私)の話は難しくてわからない」とも言われました。
※伝えたのは「心配で何か言いたい気持ちはわかるが、本人の状態がよくなるまで待った方がいい」というだけの話です。
義母が相手(子供や孫)を思いやって行う行為は、全て「相手の為になる」と信じて疑わないのです。
それが「大事に大事にしている子供たちを傷つける行為」だと気付いたら、長年培ってきた義母のアイデンティティが崩れるとも思うので、一種の防衛反応かもしれません。
漫画の中で、指を切った武嶌さんが慌ててその傷を隠そうとする…という場面が描かれます。
なんで怒られなんだったら怒られないのかわからない。母親の顔色ばかりうかがうようになっていた。
自分のイライラをぶつけ続けたせいか、娘・なぁちゃんも母親の顔色をうかがうようになった。これは胸が痛くて…。
私にとって親が「毒親ではない」と断言できる根拠の一つに「親に対して自分の意見をはっきり言える」という点があります。顔色をうかがった記憶もありません。
私には、義母を許すのは難しいと感じます。でも、もう70歳近いから「治せ」というのは義母の人生を否定しているのと変わらない。
それでも義母は他人だから、反面教師だと割り切って、諦めて付き合うことも出来ます。
義理の母ですら、この気持ちの重さ。もし、実の親だったら…。想像するだに恐ろしいです。
漫画を読んでいてつらいのは、両親ともに「軸」がぶれて見えること。
でも、ちょっと気を抜くと、勘違いをすると。このお父さん、お母さんのようになると思うんですよね。
自分では完璧な子育てをしている気になってしまったり、軽い気持ちで放った言葉が子供の心に突き刺さったり。
自分の好意や行為が呪いになって子供の首を絞め続けることに気付かず、子供を完璧に育てたと信じ込んで一生を終えるのは、絶対にイヤだ。
反面教師としてそうならないように気を付けるしかない。
それにしても、親の存在や関わり方って重大ですね。
子供の力を信じて「それなりにやっていれば良し」としないと、逆に自分が「親業の重圧」に苦しんでしまいそうです。
定期的に読んで、自分の育児を振り返りたいと思います。
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自分自身の経験を交えて色々なことを考えさせられるのですが、最後に変化した作者の姿が描かれており、読後感が明るいのがありがたかったです。
【より楽しむために】
作中で作者が読んでいた本
読みたい人もいるかな?と思って調べてみました。
子どもを虐待する私を誰か止めて!(長谷川博一)
●amazonで試読できます
お母さんはしつけをしないで(長谷川博一)
●amazonで試読できます
ダメな子なんていません(長谷川博一)
ファミリー・シークレット(柳美里)
児童虐待―現場からの提言(川崎二三彦)
この子はこの子でいいんだ。私は私でいいんだ(明橋大二)
毒になる親(スーザン・フォワード)
●amazonで試読できます
娘が学校に行きません(野原広子)
コミックエッセイ(漫画)です。
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母という病(岡田尊司)
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※新書版
※続編?
毒親をテーマにしたコミックエッセイ2作
これらは作中には登場していませんが、「毒親」をテーマにしたコミックエッセイです。
それぞれの本の内容紹介はシロクマ先生が書いたコラムが分かりやすいです。
●比較検討:『母がしんどい』と『毒親育ち』(シロクマの屑籠)
関連リンク
●なみなみの墨壺
作者・武嶌波さんのHPです。
「日記」ページに書店営業の話や娘・なぁちゃんの近況などが書かれています。
写真を見ると漫画の絵とよく似てると思います(髪とか頭の感じが特に)。
●神戸三宮 臨床心理士tomo@神戸のカウンセラー逍遥記
作中で作者が相談した臨床心理士さんのブログ。