【感想】父親による育児漫画

『マコとルミとチイ』(手塚治虫)感想~育児漫画のはじまり~

投稿日:2013年6月19日 更新日:

タイトルに「育児漫画のはじまり」と書きましたが、私が今まで調べた中では一番古い育児漫画です。
手塚治虫の子育てに対する思いや考え方が垣間見れます。

雑誌読者の評価により試行錯誤しながら描いたようで、視点が定まらない・落ち着きのない作品でもあります。
面白いエピソードと面白くないエピソードの落差が大きいといいますか…。

作者の育児体験を描いたコミックエッセイではなく、手塚治虫の子育てに対する思いが垣間見える「家族をテーマにした創作漫画」と表現した方が妥当な気がします。

amazon ★★★★★(4.8)
楽天 (-) ※評価なし
※文庫版のレビューより

【内容紹介】

人気漫画家・大寒鉄郎は3人の子の父親となったが…!?
手塚治虫が描く自伝的子育てアットホームコメディ!!

【感想】

手塚治虫さんが雑誌『主婦の友』1979年8月号~1981年10月号まで連載していた育児漫画です。
32歳のとき長男・手塚眞(1961年生まれ)、35歳で長女・手塚るみ子(1964年生まれ)、40歳で次女・手塚千以子(1969年生まれ)が誕生。

手塚治虫(作中では大寒鉄郎)と妻・律子の間に長男・眞(マコ)が産まれるところから物語が始まります。
『火の鳥』を彷彿とさせる始まり方。
最初は子供の目線から見た世界を描こうとしていたそうですが読者に不評だったそうで、途中から律子を中心とした家族漫画となっていきます。

マコとルミとチイ

マコとルミとチイ

全18話、次女・千以子(チイ)が産まれた直後くらいで終わっています。

マコとルミとチイ

マコとルミとチイ

あとがきに「いうなれば私小説」「この漫画でかかれている三分の一は、ぼくの創作です」と書かれています。
連載開始の頃(1979年)には眞さん18才、るみ子さん15歳、千以子さん10歳。
子供が生まれた当時を思い出しつつ、目の前にいる中高生になった子供たちの日常をエピソードに加えつつ、描かれた作品のようです。

楽しく読めそうなのは、
・手塚治虫の漫画が好きな人
・『ブラックジャック創作秘話』や『まんが道』など手塚治虫が登場する漫画が好きな人

単純に育児漫画を読みたい人は別の作品を探した方がおもしろいと思います。

=======

印象に残ったのは、手塚治虫の子育てに対する考え方です。
学校は私立か公立か、ピアノを習わせるかどうか…等々、手塚が父親として自分の考えを述べる話は読みごたえがあり面白いです。

例えば、長男・マコが怪奇なものやグロテスクなものに対して興味を示している!と小学校の先生に呼び出されるエピソードが描かれます。
流石に小学2年生の頃からプラモデルに血を描いたりはしないと思うのですが、漫画が描かれた時期(手塚眞さんが中高生の頃)であれば、こういった呼び出しもあったのではないか?…と思います。

マコとルミとチイ

マコとルミとチイ

「教師から(グロテスクではない)他のことに興味を持たせるよう指導された」と愚痴る律子さんに対し、「(本人が興味を持っている)毛虫を飼わせよう!」と締切そっちのけで虫を飼う小屋を作ろうとする手塚治虫。
ユーモラスに描いていますが、手塚先生のような反応(対応)はなかなか出来ないと感心しました。
律子さんの気持ちは分かります。でも、その対応は違うような、才能の芽を摘むような気もする。

もし、自分の子供が妖怪だとかスプラッタだとか、楳図かずおが描く世界のようなものを好んでいたら。
教師から、その性質を改めるよう指導されたら。
「これがこの子の個性だ」と認めてあげられるだろうか。
「何か異常があるのでは」と、不安になって私(親)が思う「まともなもの」を与えるような気がします。

親の常識を押し付けるのではなく、本人の興味があるものを認めてそこから始めようとする姿勢。
漫画の最後に描かれた「三人とも個性の強い子に育てていくつもり」との言葉の通りです。

マコとルミとチイ

マコとルミとチイ

読者の反応を見ながら描いているせいか、妻・律子を中心に据えようとした話は今一つまとまりが悪い感じがします。
当時は、フィクションを含めても家族漫画・育児漫画の前例が少ない時代。
手塚先生は父親だけれど、連載していた雑誌は女性向けの婦人雑誌。人気を集めていた『サザエさん』(長谷川町子)や『ハーイあっこです』(みつはしちかこ)のような作品を求められたのかな?とも思います。
一定のスタイルが固まるまでは試行錯誤するしかなかったのかな、と思いながら読みました。

収録された中で一番おもしろかったのは『ゴキブリネコ』。
色々考えさせられる構造の物語です。

マコとルミとチイ

マコとルミとチイ

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「育児漫画としてはイマイチ」と書きながらも、手塚治虫の人物像を探るには面白い作品です。

『まんが道』に描かれている手塚治虫は、トキワ荘に仕事場を借りて、いつ寝ているんだろう?…というほど漫画を描き続けている印象。超人ではあるけれど、家族の姿は見えない。独身のようでした。

この漫画を読むと、家族とレストランに食事に行ったり旅行に行ったり、忙しい中なんとか時間を捻出して家族と過ごそうとしています。
子供たちが小さい頃は自宅に仕事場があったのかな?それで一緒に過ごす時間が確保できたのかもしれません。

妻の実家に里帰りしている最中に編集から呼び出されたりして、本当に忙しそうです。

マコとルミとチイ

マコとルミとチイ

『マコとルミとチイ』で描かれた手塚本人を見ていると『ブラックジャック創作秘話』の人物像と近い気がしました。
『ブラックジャック創作秘話』を読んだとき「手塚先生って結構変な人だったんだな…」と思ったのですが、この漫画でも手塚治虫の変人(金持ち?)ぶりがうかがえます。

お正月の家族旅行のとき、仕事の為、後から家族を追いかけた手塚。
電車のチケットがとれなかったから東京から福島までタクシー。
目的地に着いたけれど旅館の名前が分からないため、50軒以上の旅館をタクシーで回る…。

マコとルミとチイ

マコとルミとチイ

しかしまあ、育児漫画(もしかしたらコミックエッセイも?)の最初が手塚治虫だと知って驚きました。
このジャンルは女性漫画家の方が先に描いてそうなものなのに。
「新しいことに挑戦する姿勢」はすごいですね。本当に天才だったのだなあ…。

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