【感想】父親による育児漫画

『打ち切り漫画家(28歳)、パパになる。』(富士屋カツヒト)感想~「完全オリジナルだな」と思える漫画。おすすめです!

投稿日:2017年4月18日 更新日:

久々に「新しい」「完全オリジナルだな」と思える漫画に出会いました。28歳の新米パパが妊娠・出産・育児を通じて少しづつ”父親”へと成長していく物語です。おすすめ。

B6判、全160ページ、648円です。
●「ヤングアニマルDensi」で試読できます。

●レビュー
amazon ★★★★★ ※レビュー2件

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【内容紹介】

新人漫画家のかっちゃんは今日、週刊連載の打ち切りを食らった。そして、妻が妊娠した。低収入、若年層、不安定職業ながら、パパになります。新米パパの育児エッセイ! パパ目線の育児コミックならではの新しい感動を、あなたに。

【感想】

作者のプロフィール

作者の富士屋カツヒトさんは漫画家。旧ペンネームは土屋雄民。小学館IKKIやスピリッツでの連載経験があり、コミックエッセイ(育児漫画)は今回が初。タイトル通り、28歳で父になったようです。
妻・そんたん、息子・きー坊(樹一くん)の3人家族。

漫画の構成

1話20ページ、全20話で構成されています。他におまけマンガ(作品の裏話)が3ページ、「パパになるノート」が3ページ収録されています。
2度目の連載打ち切りが決まり、妻の要望で「子どもを作ると決意」?するところから物語が始まり(1話)、妻の妊娠・出産から息子・きー坊が1歳になるまでが描かれます。

あらすじと特徴

「子ども」と「仕事」が物語の柱です。結果、子どもの登場場面は少なめだし、仕事での挫折が描かれるしで「読んでホッコリ…」はできません。個人的には「育児」ではなく「育・自」漫画だと思ってます。
富士屋カツヒト版『まんが道』と呼んだ方が誤解が少ない気がしています。「育児漫画か…」といって敬遠せずに1つの作品として読んでほしい。世代や性別を問わずに楽しめる作品だと思います。

成長物語の側面があるせいか、作者は「子どもを作るなんて考えたこともないダメな人」として描かれています。
妻にせがまれ、子どもを作ると決意する場面は”どうにでもなれだ…”とやけっぱちな雰囲気ですし

口では「立ち会いたかった」と言いながら、妻の産院がの方針で"立ち会えないのがわかった時 内心 ホッとしていた”。子どもへの興味は薄い。

浮かんでくる”父親ってどうなったらなってるんだろう””親父はいつ親父になったんだろう”といった疑問。

出産のときは、スマホを抱えてコタツに寝転んで、妻が無事かどうか不安になり、「自分が父親になる未来」を想像して暗い気持ちになる。

「出産」という喜ばしい一大イベントなのですが、立ち合い出産でなく病院にいるわけでもなく、家で一人待っている。そこで語られる本音は、子どもができたときに考える不安がぎゅっと凝縮されていて「そうそう、そういう不安あるよね」と思いながら読みました。”ああ…自分の親よりももしくは同じように… お金を稼げる事はこれからずっとない気がする…”という気持ちはわかるなあ。

一方で、漫画から離れて始めた大道具の仕事はうまくいかない。(多分ストレスで)難聴の症状が出たり吐き気を催したりで失敗を繰り返し、段々と追い詰められていく。(読んでて胃が痛い…)

ここからはネタバレあり感想です。ご注意を。

好きなところ

創作漫画を描いていた漫画家さんが、自身の技術を駆使して描いた妊娠・出産・育児漫画です。特に絵の部分で、既存の育児漫画にはないオリジナリティを感じました。
色々な育児漫画を読んできましたが、普段、創作漫画を描く漫画家さんによるものは創作漫画を描く技術が全く生かされず、どこかで読んだ4コマ漫画やコミックエッセイになり、物語的にも絵的にも評価が落ちることが多いです。でも、今作は「創作漫画を描いていた人がその技術やノウハウを生かして描いた作品」になっている。

その1点だけでも評価に値します。創作漫画描いてて育児漫画描こう!という人はお手本にしてほしいくらい。(創作漫画家による育児漫画はガッカリすることが多いのです…orz あれは何故だろう…)

具体的にいうと、

・世代の繋がりの描き方が巧み
・絵がうまい(キャラクターデザインや背景、構図)
・文字(言葉)でなく絵で語る場面が多い

世代の繋がりが描かれている

作者が息子・きー坊を抱いて「人生の主役が変わったような気がする…」と想う場面が描かれており、「人生の主役交代」≒「世代の繋がり」もテーマの1つだと思うのですが、描き方がうまい。

特に子どもや父母、祖父母の姿(デザイン)が秀逸で。

息子・きー坊のデザイン。
目を開けたときは父に、目を閉じたときや笑っているときは母に似ているとの説明があり、漫画の中でもそのように描かれます。

目を開けたとき(成長して1歳に近くなるにつれて)父に似た顔が多く、目を閉じているとき(新生児期など寝ていることが多い時期)は母・そんたんに似ている。結果、場面によって顔が父に似てたり母に似てたりするんだけど、どの場面も「きー坊」という1人の人間ではあるという。

作者が少しづつ父親らしくなっていくのに合わせて、息子も父に似てくるのは面白いと思いました。

説明するとシンプルな方法ですが、今まで誰もやってないと思う。少なくとも私が読んだ育児漫画ではやってない。大発明だと思う。
でも実際に描くのは難しいとも思います。破綻なく描き切れるのは確かな画力があるからだよな~と感心しました。

デザインが破綻しない画力

作者と父の顔も似ているし、絵を見るだけで繋がりが分かる。そんたんが確かに”そっくり”だと思うし、繋がっていると感じる。

もう1つの家である、妻・そんたん家族。
そんたんの母の顔はよく似ています。母子というのがよくわかる。きー坊が笑った時とも似ている。

これもシンプルでわかりやすいのですが、育児漫画系でやってる人、いないと思う。(言葉で「父似」「祖父似」等の説明文が入ることはあるけど、絵で納得させることはほぼない。)

世代の繋がりを感じさせるエピソード

他方で、義理の父との繋がりの描き方がうまいと思っていて。
きー坊が生まれる前に亡くなっている妻・そんたんの父(作者にとっては義理の父)。顔は似ていない。

漫画の中で、作者の悪いクセ「嘘をついてでもかっこつけたい」と願う場面が2回あります。1回目は義理の両親を前に「娘さんを僕にください」とお願いする場面。2回目はこの漫画のネームを描き始める場面。
1回目は義父を前にして「嘘をついても仕方ない」と意を決し、2回目は息子・きー坊を前にして「嘘をついても仕方ない」と意を決す。

作者の反応を鏡にして、義理の父と息子・きー坊の繋がりを描く。私も子どもを生む前に義理の父を亡くしており、亡くなった人を家族の輪の中に入れてくれたのが嬉しかったです。

背景や構図がうまい

構えずに読んで普通に面白いのですが、絵を細かく見ながら読むと2度美味しい作品です。背景の描き込みがすごいです。読んでいて邪魔にはならないのだけど、よく見ると色々細かく描かれていて楽しい。
作者家族が住む部屋は「小さい子どもがいる」と感じさせるし、実家(名古屋の一戸建て)と義理の実家(横浜にあるニュータウンの団地)を見比べると、家具のタイプや物の置かれ方も違っていて、それぞれの家の雰囲気がよく出ていると感じました。

例えば作者の実家には仏壇が置かれ、そんたん宅だとタンスの上?に位牌を置いている…(↓の左端に描かれているのが扉付きのご位牌に見えるけど違うかなあ)。

構図についてはこの構図は魚眼レンズっぽいですね。作者の実家は物がごちゃごちゃしてる感じ。(何気なく弟さんもいる。)場面によってカメラアングルが色々で、演出効果も高いですがよく練られていると感心しました。

原作付き漫画を描かないか?と誘われた場面の雷鳴と豪雨。創作漫画ではやってる人も少なくないけど、育児漫画(コミックエッセイ)でこういう演出する人見ない。

気付かなくても読めるし十分楽しめる作品ですが、細かい構図や演出が作品の精度を高めていると思うし、作品を読むことで「作者が変わった(成長した)」ことが感じられて良いです。漫画の中での「親方の言葉」を返上できていると思います。

その他好きな場面など

きー坊の名前「樹一」の「樹」が、大木ではなく仕事で使っていた角材なのが面白かったです。

新生児期のきー坊のサイズ感がぐっときました。たしかにこういう感じ。小さくて儚いの。

妻・そんたんのキャラクターが良いですね。一貫してる。
夫婦(家族)なので実際には色々あるとも思うのですが、この姿勢はモノづくりをする人の妻として見習いたいよなあ、と思いました。(私の夫はゲームデザイナーです。)

まとめ

『打ち切り漫画家(28歳)、パパになる』というタイトルは勇気がいると思うんです。読んで「こりゃ、打ち切られて当然だわ…」と思われたら失敗だから。
今回、単行本を読み終えて「なんでこの人、打ち切り漫画家なの?」と思いました。

WEB連載を読み終えて満足してたし、連載終了から発売まで間が開いたこともあり、単行本を買うか迷いましたが、買って正解でした。紙の単行本で繰り返し読むことで評価が大きく変わりました。
興味を持った方には是非1話を試し読みしてほしいですし、繰り返し読んでほしい1冊です。

きー坊が中心の育児漫画も読みたい気がしますが、別の作品(創作漫画)も読んでみたい。漫画を描く機会が増えることを祈っています。

興味がある人はこの辺もチェック

作者・富士屋さんのTwitter漫画

単行本発売日前後に投稿された漫画がまとめてあります。

(多分まとまってない)その6はカラー扉と合わせて読むと楽しい。

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こういう作品と出会えるから育児漫画というジャンルは楽しいですね。ブログを続ける気になりました。ありがとうございます。

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