【書評】おすすめの育児書

【感想】『きみは赤ちゃん』(川上未映子)~産後クライシスの描写が秀逸な文章エッセイ~

投稿日:2014年7月23日 更新日:

妊娠40週6日、やっとこさ前駆陣痛が始まりました。

えーと。前駆陣痛の質、前回と違っています(汗)。等間隔(10分おきとか)で、もう5時間以上、続いています。痛い。
……なんというか…この痛み、いつまで続くんだろう…(遠い目)。

1人目の時に陣痛が始まった!と勘違いする人がいるのもうなずけますね…。

今日は川上未映子さんの文章エッセイをご紹介。
前駆陣痛で眠れない中(苦笑)、昨晩、一気に読みました。

独特な視点と語り口が心地よく、特に産後クライシスについての記述に共感を覚え、新しい発見もありました。
全294ページ、1404円です。
●「本の話」WEBで試読できます

amazon ★★★★(4.3) ※レビュー3件
楽天 レビューなし

【内容紹介】

5歳ではじめての出産。それは試練の始まりだった!
芥川賞作家の川上未映子さんは、2011年にやはり芥川賞作家の阿部和重さんと結婚、翌年、男児を出産しました。
つわり、マタニティー・ブルー、出生前検査を受けるべきかどうか、心とからだに訪れる激しい変化、そして分娩の壮絶な苦しみ……
妊婦が経験する出産という大事業の一部始終が、作家ならではの観察眼で克明に描かれます。時にユーモラスに、時に知的に、子供をもつということの意味を問いかけます。

さらに出産後の、ホルモンバランスの崩れによる産後クライシス、仕事と育児の両立、夫婦間の考えの違いからくる衝突、たえまない病気との闘い、卒乳の時期などなど、子育てをする家族なら誰もが見舞われるトラブルにどう対処したかも、読みどころです。
これから生む人、すでに生んだ人、そして生もうかどうか迷っている人とその家族に贈る、号泣と爆笑の出産・育児エッセイ!

【感想】

作者のプロフィール

川上未映子さんは1976年生まれの小説家でありミュージシャン。
代表作は『乳の卵』(2008年に芥川賞受賞作)。

夫は作家、映画評論家として活動している阿部和重さん。

川上さんは2012年5月、35歳で男の子を出産されています。
この本は妊娠がわかってから出産、産後1年の育児の様子を描いた文章エッセイです。

作品解説

7月発売の育児漫画が1冊しかなかったから、小川上未映子さんがどういう感じか?全く知らないで買いました。

今回、この作品を買ったのは……。2人目がなかなか生まれなくてイライラしていた、というのが大きい。
誰かの出産を書いた漫画かエッセイが読みたかったのですが、最近の妊娠・出産漫画は全部買っていたので、最近発売されたこの本を試読。

面白かったし、文章のリズムが自分に合うから最後まで読めるな、と思いました。

妊娠・出産について描いた漫画もおもしろい作品がたくさんありますが、近年、妊娠・出産・産後の状態や気持ちが文字や文章となっている作品(文章エッセイ)は少ないように感じます。
そして、この作品は独特のリズム感が読んでいて心地よく、表現が気持ちにフィットします。

妊娠時の出生前診断についての考えや葛藤、決断、最終的にどう感じたか…?については非常に共感できました。
私は夫婦で話し合い「検査を受けない」方針ですが、検査するかどうかで揺れている人が読むと良いような気がします。

妊娠中の食欲話は…なんというか、作者は食欲魔人と化したようですね…。あの細い身体でそんなに食べるのか!と。
それだけ食べても+12㎏で終わるのか…と変な感心をしてしまいました。(私は今回+8㎏です…それなりに我慢してるんだけど…体質?)
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妊娠中の性欲というか、セックスについての考えがおもしろかった。
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出産は無痛分娩の予定でしたが、急きょ、帝王切開に。
無痛分娩にかかる費用さは予想以上に高かったな…(もっと安い病院もあります…)。

帝王切開での出産後の体験談は、漫画で読むよりも痛みを感じました。痛いだろうとは思っていたけれど、読めば読むほど痛そう。
帝王切開の人はみんな、痛みを薬でごまかしながら育児をスタートするのだなあ…。この文章を読んだら、帝王切開への偏見なんてぶっ飛ぶのではなかろうか…。
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私の産後クライシスについて

自分としては、特に産後クライシスの体験談に共感を覚えました。

というのも、私自身も産後クライシスを経験して、あの独特の暗い暗い海の底にいるような、何ともいえない経験を文章にしたいと思い続けていました。
旦那さんに対するヒリヒリとした思いや絶望や、圧倒的な孤独は覚えているのだけれど、その一方で、自分自身で「あの時の自分」を不思議に思う気持ちもあり。

我が家の産後クライシスは、娘が1歳になった2013年5月頃に本格化し、2013年9月に離婚を決意。旦那さんに土下座してお願いしました。
それをきっかけに旦那さんの態度や行動が急変し、自分の中の不満やわだかまりが消え、その後に2人目の妊娠もわかり、現在に至ります。

落ち着いてから半年以上経つと「何故あんなになっていたのか?」がよく分かりません。
しかも、本格化し苦しみ抜いた時間は半年なんだな…。もっと長い時間だと思ってました。

何故そんなに、旦那さんのすること為すこと、全部気に入らなかったのでしょう?
ホルモンバランスもあるでしょう。ストレスもあるでしょう。色々な要素が絡んでいるとは思うのです。

現在の私は、産後クライシスが単に悪い経験だと思っていないものの、あの圧倒的な孤独感は味あわなくてもいい、と思っています。
里帰り出産前に旦那さんと反省会をしたら、旦那さんもあの時期、孤独で孤独で、苦しんでいた。
2人して娘というかけがえない存在を手に入れて喜び勇んでいる裏側で、寂しくて辛くて怖くて、何をすればいいのかわからない。そんな状態だったようです。

※反省会の詳細はTogetterでまとめているのでこちらを参照ください。
夫婦で1人目出産時の産後クライシスをふりかえる
いままでの夫婦の形と、これからの家族のイメージ

作中で語られる産後クライシス

自分語りが長くなりましたが、話を戻して。
川上未映子さんが書いた産後クライシス体験が非常に客観的で笑えて、でも書いてあること自体はリアルでした。

作中に、こんな一文があります。
※あべちゃん=川上さんの夫、阿部和重氏のこと。
※オニ=息子さんの愛称

なぜあべちゃんは変わらないのだろう。体も、考えかたも、仕事することへの罪悪感のなさもそうで、そして生活のこまかなことでいえば、たとえば朝の支度ひとつとっても、どうしてひげとか剃ったりできるだのだろう。わたしなんてまともに歯だって磨けてないのに。”(P231)

オニはいい。オニはわたしが産んだ、わたしの赤ちゃんだもの。なにがあってもオニはわたしが守るし、なにがあってもわたしが一緒に生きてゆく。しかし、あべちゃんは他人である。それなりの縁はあったかもしれないけれど、しかしれっきとした他人である。なぜ、こんな状態のわたしが大人であるあべちゃんの食べるものを作らなければならないの。わたしはあべちゃんの母親ではない。”(P231)

うわー。私も思ってた。ひげを剃るな!と思ったことは無いけれど、こういう妬みというか、「私はできてないのに旦那さんは…」という感情はありました。
私は彼の母親ではないのに、何故母親のような役割をしなければならんのだ…!という矛盾にムカついて仕方なかった。

産後クライシスですねえ…(遠い目)。

妊娠中に伏線めいた描写と言いますか、後の禍根?になったと思われる出来事や気持ちも書いてあって。
なるほど、産前から始まっているんだなあ…と気付かされました。
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作品を読んで見えてきた、産後クライシスの根本原因?

読み進めていく内に、私の視点からも、インターネットで拾える記事や産後クライシス関連の書籍からも抜け落ちていた根本原因が書かれているように思いました。

ひとつの視点は、睡眠欲求の話。

特に睡眠については、女性自身が眠らずに頑張ってしまうところがあります。
川上さんは眠る為、仕事をする為に混合で育児を進めていますが、完全母乳だと、産後1〜2カ月は3時間おきに授乳をするから、寝たくても寝れませんし…(半年くらいは細切れ睡眠が続く…)。

作中で、産後3か月くらいまでの時期にホルモンの働きと変な強迫観念から、いつも以上に頑張ってしまう女性の気持ちを文章にしているのですが、この部分の描写は素晴らしいので実際に読んで頂きたいです。

読んで、ちゃんと眠るって大事だな…と痛感しました。私も1人目の時は完全母乳を目指してたし、諸々がんばり過ぎていたので。
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私は川上さんと違って、世間全般の「男」という存在への嫌悪感、否定したい気持ちは起こりませんでしたが、旦那さんが私という存在を"脅かす"感覚は分かる気がしました。
もうちょっと大きいことを言うと、産後は旦那さんが、私の基本的人権や生存権を犯す立場に立っているから、絶望感や孤独感が半端ないのではないか?…と思いました。

今まで最も信頼し、話が通じていた相手が、マリー・アントワネットとフランス市民のような「わかりあえない絶対的な対立した立場」になったと感じる。

必死の思いで、状況を変えてくれると信じて自分の想いを伝えたのに「ブリオッシュ(お菓子)を食べればいいじゃない?」と答える。
そんなやりとりは、私たち夫婦の間でもありました。

その言葉は、相手への信頼を失墜させる。旦那には言葉が通じないと思う。
だから、産後クライシス期の自分は、圧倒的に孤独を感じたのかな。

もう王家などいらない。革命しかない。
フランス市民がそう思って王家を追ったように、旦那さんは私の人生に必要ない。離婚だ。そう決意した気がします。

マリー・アントワネットの視点だと、市民がなぜ怒るのか?なぜ自分に石を投げるのか?
本気で、分からないと思うのです。
マリーにはマリーなりの苦悩や苦労もあったでしょうし。
旦那さんには旦那さんなりの悩みや葛藤もあるのでしょう。

この絶対的な溝を埋める術は思いつかなくて。
うちの場合は、旦那さんが変化することで埋められたのですが、万人に通用する方法論ではないですし。

とりあえず、産後の奥さんがちゃんと寝て、ちゃんとごはんが食べられる状態にするだけでも、関係は悪化しにくくなるとは思いました。
2人目では母乳に拘らずに混合でいくつもりなので、私もがんばらずにちゃんと寝て、ちゃんとごはんを食べられるよう、旦那さんに要求すべきことは要求しよう…。

まとめ

感想を書いている間も前駆陣痛が痛くて辛いので、自分語りに偏った中途半端な感想となってしまいましたが、良作なのでぜひ、手にとって読んでほしいと思います。

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